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狼と香辛料クロスオーバー小説、ガッツ「お前に鉄塊をぶちこんでやる」ホロ「!?」その2

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狼と香辛料ベルセルクのクロスオーバー小説です。

狼と香辛料ほんわか御伽話風の雰囲気を、ベルセルクのグロさが多少壊してしまう感じになっていますが、それでも良いって方、興味が湧いた方は是非是非読んで下さいませ。

・あらすじ

同じローエン商会との者だと名乗るルナと、道中を一緒に旅する事になってしまったロレンスたち。

その旅の途中、夜も更け野宿する事になったのだが、ルナとロレンスたちは眠る前に焚火の前で色々な話をしていた。

その話の中でロレンスは、ルナから、化け物を殺しまわっていると言う【黒の剣士】の話を聞く。

その後、ホロとロレンスが話していると、ルナの様子がおかしくなる。

それはまるで人ならざる者。

しかしそれはホロでもはっきりとした確信が持てる物ではなかった。

確信が持てるものでも無かったが、危険を感じたロレンスたちは、朝になったらルナと別れるようと決める。

だがその時、ルナが話していた【黒の剣士】に似た風貌の、黒ずくめの剣士が現れる。

・前回

tentama315.hatenablog.com

二章【妖精】

馬がいななく声が響きわたる。
無惨に壊れたロレンスの荷馬車の荷台。
これを買うまで、どのくらい足で商売し、どのくらいお金をかけて買っただろうか?
お金以外にも、ホロと旅した思い出、御者台に隣り合わせで座ってきた思い出、町につくまで高舌戦繰り返した思い出、寒い日には、毛布の間に滑り込ませてくれたホロの尻尾が暖かった思い出、思い出、思い出、思い出……。
その思い出が、壊された荷台の無数に散らばる木の破片のように、バラバラにされたような、そんな失望感がロレンスを襲う。
それをさらに踏みにじるように割れた荷台の真ん中で悠然と立つ黒ずくめの剣士。
しかし驚くべきはその出で立ちではなく握られた剣。
いやあれは剣と言うべき物なのか?
その剣はあまりに大きく、ぶあつく、重そうで、とても大雑把な物だった。
まるで人間が人間を振り回しているような異様を感じさせる、大の大を越えた巨剣。
そんな化物染みた剣を携えた黒の剣士は、ゆっくりとこちらに向き直る。
間近で見た剣士の様相は、髪は針ネズミにとがった短髪、右目は無いのかつぶっており、年はロレンスよりは上か、見ようによっては若くも見えるがあまりにも険しい表情が年齢を引き上げる。
そんな全てにおいて、圧倒的で威圧的な存在感を放つ黒の剣士は、ロレンスたち
を見渡し、その中にホロの姿を見つけると狙うように見据える。
やはりルナが言った通り、黒の剣士は化物、ホロのような存在を狩るのか?
それにあの巨剣、やばくないか?
例えホロが巨大な狼の化身に戻ったとしても、あの剣で斬られればただでは済まないだろう。
ホロを守らねば。
その一念がロレンスを冷静にさせる。
しかし、守ろうにも先ほど荷台から吹き飛ばされた時、ホロたちから離されてしまった。
その距離はたかが数十歩だが、黒の剣士が間にいると、何百里も先のように感じるほど遠い。

遠く感じる。
相手は確実にと言うか、言うまでもなく戦闘の熟練者。
いや、下手をしたら神話に出てくるような英雄や勇者のような、そんな神がかり的な強さを持っているかもしれない。
そんな黒の剣士の横を下手に通ろう物なら、それこそロレンスはあの巨剣で簡単に真っ二つにされるだろう。
想像するだけで、真冬の北の地方にいるときのように足が震える。
ガクガクブルブルと。
しかしそれでも行かなければいけない。
ひ弱な商人であるロレンスが行ったところで、何ができると言うのだろうか?
そんな事はわかっている。
しかしここでホロを失えば、例え自分が生き延びてもロレンスは生きられない。
生きる意味を失う。
それほどまでにホロはロレンスの中で、何物よりも代えがたい大切な存外なのだ。
その思いがロレンスの気持ちを奮い起たせ、足の震えを止め、前に進む力を与えた。
「主よ!! 無理をしてはいかん!」
ロレンスの無謀な進軍を止めようと、悲痛な叫びでホロが叫ぶ。
しかし今のロレンスにとってはそんな制止は無意味。
逆に気持ちを奮い起たせる刺激材料にしかならない。
ロレンスは不安がるホロを安心させるために笑って見せる。
ホロでなくてもわかる無理な作り笑い。
今は誰がなんと言おうと、誰が立ちふさがろうと、ロレンスを止める事はできないのだ。
と、ロレンスは思っていた。
思っていたが。
ぞわりぃィィぃ…。
黒の剣士を横切った瞬間。
黒の剣士に向かい合っているロレンスの半身が。
まとわりつくような、染み込んでくるような、切り刻まれているような。
そんな圧倒的な黒の剣士の存在が、確かな恐怖が襲う。
一歩一歩、黒の剣士の横を進む度に、自分の体が真っ二つにされる想像をする。
その想像がロレンスの顔を、ぐにゃり、と恐怖のそれに歪ませる。
もう無理に強がる顔をする余裕はない。
きっと今ホロに見せてる顔は、酷く情けない物になっているだろう。
目は、ぎゅっと瞑られ、その目尻には涙を滲ませ、歯を食い縛り、今にも恐怖に押し潰されそうな。
そんな顔をしているに違いない。
それでもロレンスは進む。
ホロの元に行くために。
足を上げてから地面につくまでもが酷く長く感じる。
そんな永遠に続くかのような苦行の最中。
それでも、ようやくと言った感じに、黒の剣士の横を通りすぎる事ができる。
ホロの顔が近くなり、ロレンスは達成感による心地よい安堵に包まれ、自然と顔が緩むのを感じた。
その時だった。
その刹那。
ロレンスの体が宙に跳んだ。
あまり味わったことがない浮遊感の中、ホロと目が合う。
その目は大きく開かれた驚きの顔。
その顔を見てロレンスは今の状況を把握する。
斬られたと。
ロレンスはそのまま転がるようにホロの足下にたどり着く。
それをホロは悲痛な面持ちで見下ろし、絞り出すようにロレンスに声をかける。
「愚か者め! …なんと言う無茶を」
俺はこれから死ぬ。
そう確信したロレンスは、せめてホロだけでも、コルだけでも逃げられるよう、自分に後ろ髪引かれぬよう、精一杯の笑顔で言う。
「ホロ、コル俺をおいて逃げろ…」
「はぁ!? 何を言ってるんじゃ! 主を置いて行ける訳なかろう!!」
「そ、そうですよ! ロレンスさんを置いて逃げれる訳ないじゃないですか!」
完全に目を覚ましたコルもホロに習って叫ぶ。
そんな二人の思いを、何とか断ちきるために、ロレンスも叫び返す。
「馬鹿野郎! 俺の死を無駄にするな!」
「…死? ……こっんんんのをたわけがあーーーっ!!!」
ぼかり。
頭に染み込むするどい傷み。
どうやらホロに頭を殴られたらしい。
これから死ぬのに。
恋人までに思ってくれるような事言ってくれたのに。
殴られた。
なんか、ちょっと…、いや凄く酷くないか?
と殴られたのが意味不明過ぎて放心するロレンス。
「しっかりせんか! 主はまだ死んどりゃせんぞ!」
そう言われてロレンスは、はっと気づく。
そう言えば痛くない、と言うか斬られたと思ってた下半身がある。
ロレンスはそれを認めると、体の安否を確かめるために、ばばば、と手早く体をまさぐり、傷ひとつ無いことを認めると、はぁーーー、と長い溜め息をし安堵する。
「まったくこの早とちりが、主は石にけつまづいて転んだ、だけじゃ」
「そ、そうだったのか、俺はてっきり……」
「主よしっかりしてくりゃれ? 主がそれではこの局面は切り抜けられんぞ!」
「ああ!」
ホロに応えるために、自分を奮い立たせるために、ロレンスは力強く応え立ち上がる。
そしてロレンスは、恐怖に負けないよう、必死に黒の剣士を睨むように見据える。
それに黒の剣士は応えるようにロレンスを睨み返すので、ロレンスは一瞬怯むが、何とかこらえ黒の剣士から視線を外さないようにする。
しかしそんなロレンスの努力も虚しく。
黒の剣士はすぐにロレンスから視線を外し、ホロをまた再度見据える。
やはり黒の剣士の狙いはホロなのか。
今ホロは寝る直前だったので外套はしていない、つまり狼の耳は丸出し、正体はもうバレている。
だからなのか、もう黒の剣士はホロしか見ない。
そしてホロから目を離さず黒の剣士は、剣を握っていない、もう片方の手で首の裏側あたりをさすっていた。
化物退治前のおまじないだろうか?
商人に剣士のやる事は図りかねない。
黒の剣士はまじないを終えたのか、さすっていた手を戻し、両の手で巨剣を握り直すと改めて ホロに向けて構え直す。
ロレンスはそれを見て、させまいと腰の銀の短剣を抜き、ホロを庇うように黒の剣士の前に立ちはだかる。
こうやって体を張ってホロを守るのは、パッツィオでホロを狙ってきたメディオ商会から守った時以来だろうか?
まあ、あの時もその先も、結局、狼化したホロに助けられたのだが。
それからロレンスは、自分には無理な荒事は素直にホロを頼ることにしている。
気兼ねなく頼り頼られる仲こそ、相棒でありパートナーだ。
しかし、だからと言って全てをホロに任せる訳にはいかない。
商人には商人の戦い方があるのだ。
それは言葉、交渉すること。
ロレンスは銀の短剣を向け、黒の剣士を牽制する。
こんなちっぽけな短剣では、あの巨剣に対してあまりにも心許ない牽制だが。
言葉の戦いは形から。
こんなことでもやっておけば、黒の剣士に明確なロレンスの意志を伝えられるし、話も切り出しやすい。
ロレンスは、短剣を向けるまでの短い間に思いついた、何十通りの質問の中から慎重に選んで口を開く。
「……お前は何者だ? なぜホロを狙う?」
単純だが相手の素性と目的を聞くにはベストな質問。
しかし黒の剣士は相変わらずホロから目を離さないし口も開かない。
無視していると言った感じ。
しかし相手が無視しても話続けられてこそ商人だ。
「……ホロと同じような者たちがお前に何をしたか知らないが、ホロはお前に命を狙われるような……」

「どけ」

たった一言。
ロレンスは交渉の経験を生かして、捲し立てても流暢に滑舌に話していたが、そんなロレンスの努力はたった一言で粉砕された。
ロレンスの商人として積み上げてきたものすら崩すように。
戦士と商人とでは、話一つでもこうまで空気が違うのか?
ロレンスがいろいろ喋って苦労して伝えるのに対し、黒の剣士は、どけ、そのたった二言発しただけで、ロレンスに、退かなければ斬る、と言う事を明確に伝える。
あまりの空気の違い、温度差の違い。
もうロレンスは続ける言葉が思い付かない。
「主よもういい、話が通じる相手ではない」
「……わかった」
ロレンスは歯噛みしながらもホロの言うことに即座に従う。
「気にするでない主よ、こやつから発せられる鉄と血と汗の臭いが、狂気に囚われてる事を示しておるわ。そんなやつが人として会話など出来るわけがない」
ホロはニヤリと不敵に笑いそう言う。
すると驚くべき事が起こる。
黒の剣士もホロと同じように口のはしをあげたのだ。
不敵な形に。
笑ったのだ。
感情があったのか。
ロレンスがそう驚いていると、ホロも胸の内は同じか、目を大きく見開き、驚きの顔で黒の剣士を見つめていた。
しかしその目は直ぐに細められ、再び笑みを浮かべて。
「……ほう、そんな狂気に囚われてて、なお自分を保つかよ」
と今度は嬉しそうに言いながら、ホロは胸に下げている袋から、一掴み麦を取り出そうとする。
巨大な狼の化身に戻るために。
すると黒の剣士もそれを戦闘開始の合図と取ったのか、巨剣を構え直しホロを迎え撃つ姿勢を取る。
両者の間に針のように鋭いビリビリとした空気が走る。
しかしどちらも仕掛けない。
互いの手を読みあっているのだろう。
きっと何かのきっかけがあれば、即座に激しい戦いに突入するのだろう。
そんな一瞬即発の空気の中。
ついにそのきっかけが訪れる。
しかしそのきっかけは戦いを始める物ではなく。
「待ってガッツ! それはガッツが探してるやつらとは違うよ!」
止めるものだった。
その不意に聞こえた声が、二人の間にあった戦いの空気をかきけす。
一体誰だ?
そう思って、ロレンスは声の主を探してキョロキョロするが見つからない。
「……ほう珍しい、羽根チビかや」
と、ロレンスが必死に探してるのを尻目にホロが言う。
ロレンスも見ようとホロに視線を合わせる。
しかし見えない。
「あれはわっちらと違って見えにくい、よく目を凝らして見てみよ、ほりゃあの黒坊主の顔の辺りにおるわ」
黒坊主とは黒の剣士の事だろう。
あれだけ恐ろしい相手を坊主呼ばわりとは、さすがはヨイツの賢狼ホロである。
そのホロに言われた通り、ロレンスは黒の剣士の顔の辺りに目を凝らしてみる。
すると、ぽわ、と言った感じにヒトダマのような光りが浮かび上がる、
さらにロレンスは目を凝らしてみると、その光りの中に、なにか、羽根が生えた人型の何かがいた。
あれは妖精……?
お伽噺や伝説でしか聞いたことがないが、あれは間違いなく妖精だ。
その妖精は、黒の剣士の顔の辺りを飛び回り、必死に何かを訴えていた。
「だからあれは違う奴なんだ! やつらみたいに悪い存在じゃないんだよ!」
「……」
「ねぇガッツ聞いてる! ガッツてば!?」
「……」
黒の剣士の名はどうやらガッツと言うらしく、妖精はどうやら黒の剣士を止めようとなにか訴えているみたいだ。
しかし黒の剣士は、先程の妖精の介入で気が削がれたものの、いまだホロに向ける剣を収めようとはしない。
それでも妖精は、なお黒の剣士を止めようと、訴え続ける。
そんな黒の剣士と妖精のやり取りを、3人が傍観してると、唐突に後ろから声をかけられる。
「ロ、ロレンスさん! なんの騒ぎですか!?」
ルナだった。
すっかり存在を忘れていた。
と言うかこれ程大騒ぎしてるのに、出てくるのが遅くないか?
いままで隠れてたのか? それとも……?
しかし今この状況で、ルナの正体まで勘ぐっている余裕までない。
とりあえずまだ旅の仲間として、状況だけは伝えておくことにする。
「恐らくルナさんが言ってた黒の剣士が出たんですよ!」
「なんですって!?」
ルナは言葉に大仰に驚いて、黒の剣士の姿を認めると二度驚く。
その時だった。
「来るか!」
ホロが叫ぶ。
どうやら妖精の説得は効かなかったらしい。
妖精は、黒の剣士にデコピンのようなもの食らって弾き飛ばされていた。
そして次に黒の剣士は、ホロに斬りかからんと踏み込む。
今度こそ本当に戦いが始まる。
だが弾かれた妖精はまだ諦めていなかったみたいで、また黒の剣士の面前に来ると。
「パァーーーックフラーーーシュ!!!」
妖精がそう叫ぶとまるで爆発したような眩い光が溢れ出す。
それはとても強い光で、視力を失いそうになったが、ロレンスたちはギリギリで免れる事ができた。
しかし黒の剣士は違う。
モロに眼前に食らった黒の剣士は視力を奪われていた。
「今のうちに逃げて!!」
妖精はロレンスたちにそう叫ぶ。
ロレンスたちはそれに目配せをして頷きあい、妖精が言う通り逃げる選択をえらぶ。
「よし、とりあえずみんな、はぐれないように固まって、森の中に逃げるんだ!」
その合図と共に、ロレンス、ホロ、コル、ルナの四人は、一様に暗く先が見えないうっそうとした森の奥へと飛び込んでいった。

続く。

 

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