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ベルセルクx狼と香辛料クロスオーバー小説 ガッツ「お前に鉄塊を叩き込んでやる」ホロ「!?」11

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狼と香辛料ベルセルクのクロスオーバー小説です。

狼と香辛料ほんわか御伽話風の雰囲気を、ベルセルクのグロさが多少壊してしまう感じになっていますが、それでも良いって方、興味が湧いた方は是非是非読んで下さいませ。

 

前回のあらすじ

黒の剣士の義手に仕込んだ大砲により、ルナの足を吹き飛ばしその場から逃げ出す好機を得たロレンスとホロであったが、しかしホロはいくら攻撃しても再生してしまうルナは倒せないとあきらめていたハズなのに、何故かその場を離れようとせずルナを殺そうと考えるのだった…。

 

【11章 執念の刃】

───奴をここで殺すことじゃ。
ロレンスはそのホロが言った言葉に耳を疑った。
何故ならそれは絶対に無理な事だからだ。
ホロを超える巨体と力を持ち。
治るのに何ヵ月もかかりそうな傷すらも瞬時に再生出来る。
そんな力を持った化物を殺す? そんな事はどう頭をひねくり回しても無理だ。
一体どんな考えがあってそんな事を言ってるのか、とても賢狼出した判断とは思えない。
確かに今は黒の剣士が倒れたルナを何回も大剣で突き刺し、優位なように見えるが、しかしその傷を負ってもルナの動きは鈍っているようには見えない。
やはり傷を負った先から再生してるのだ。
痛みも普通の人間より感じないのかも知れない。
これを殺す? 無理だ───出来る訳が無い。
倒す手段と言うか、その糸口の一本すら見つかっていない状況で、知恵者のホロがこんな事を言うなんて、やはりコルの死が冷静さを失わせているのかも知れない。
いや──仲間を思う狼の誇りか。
その気持ちはホロと旅した中で十二分に理解している。
痛いほど理解している。
しかしホロが戦うなら戦う覚悟はあったが、やはりホロには生きて欲しい。
怒りから無謀に無策にただ戦おうとしているだけなら、何とか思い止まって欲しい。
そう思ったロレンスはホロを説得しようと、大きな耳に顔を近づけ口を開く。
「ホロ…お前の気持ちは分かるが、ここは逃げるべきだ…ルナが黒の剣士に気を取られ、足が無くなっている…今なら」
「たわけ、耳元で騒ぐな。それにコル坊の仇討ちだけで言ってる訳ではありんせん」
「逃げ…何?」
今なら逃げられる、と言おうとしたところでホロはロレンスの言葉に被せるように、そんな言葉を口にする。
コルの仇討ちじゃない? では何故ルナを殺そうと言うのか? ロレンスが疑問に口を詰まらせていると先にホロが口を開き、その真意を語るのだった。
「主よ、よく考えて見るのじゃ、ここで逃げてもあの黒坊主が仕損じれば、また何処かでルナに襲われる。その時はもう対抗する手段はない。一貫の終わりじゃ。ならばここはあの黒坊主と共闘までいかなくても、協力して倒した方が得策ではないか?」
「そ、それは確かに…だが」
確かにそれはそうだが、口で言うのは簡単だ。
問題は一体どうやって倒すかだ。
そうロレンスが思っている事を感じたのか、ホロは話を先に進める。
「主も分かっておろう、倒す手段はあの黒坊主が知っている事を、やつはルナと同じ存在を何匹も倒しているらしいからの」
「だ、だが同じように倒せるとは限らないし、大体ルナが、黒の剣士が倒してきた奴等よりも強かったらどうするんだ」
「そこは賭けじゃ」
「か、賭けって…」
「ぬしら商人も、商売は賭け事と同じようにする時もあるのじゃろう?」
「それはそうだが…でもそれなりの見通しあっての事だ。むやみやたらに賭ける訳じゃない、確率くらいは考慮するさ」
「…見通しならある。賭けるだけの確率もな」
「え?」
「主は覚えているか、ルナに考える時間をもらった時の事を」
「え? あ、ああ」
「わっちはあの時に…いやもっと前から、もしかしたらと思うことがあったのだ」
「も、もしかしたら…? 一体お前は何の事を言ってるんだ?」
「まあ聞け、わっちはずっと見ていたのじゃ、あの位置を…あの場所をな」
ホロはそう言うと、倒れているルナにギラリとした視線を向ける。
「あの場所…」
そんなホロに合わせるように、ロレンスもまた同じ場所に視線を合わせるのだった。
あの場所───ルナの額の蠢く人影に。

 

想定外だ。
ルナは足先に感じる痛みと喪失感を感じながら、数百年ぶりに焦りと言う物を感じていた。
こんな気持ちを感じたのはいつ以来だろう?
まだルナが人間の時、ビシェルのために戦った戦争で己の男自身を失った大怪我した時だろうか?
いや、あの時その痛みよりもビシェルの為に戦っていると言う高揚感で、あの程度の痛みでは焦りなどは感じなかっただろう。
では最後に戦いで焦りを感じたのはいつだ?
ルナには思い当たる事が無かった。
人を辞め、人智を超えた獣の化身ですら捕食する超越者になった時からルナには敵はいなかった。
フォルクスを襲った時も。
ヨイツの狼を襲った時も。
テレオの蛇神を襲った時も。
奴らはただの餌だった。
ただ餌にしか見えないくらい弱かった。
故にルナはここ数百年、自分より強いと思う、殺されてしまうような敵に出会った事は無かった。
いや、そんな事自体を考える必要が無かった。
一片の考慮もする事は無かった。
何故ならそんな存在はいるはずがないから、自分を傷つけられる者などこの世にいないのだ。
例えそれは同じ使徒であってもだ。
ルナは本気でそう思っていた。
なのに。
なのにだ。
今自分は足をもがれ、人間だった頃に感じたような痛み感じさせられている。
しかもそれは使徒ではなく、ただの人間に。
矮小な人間に。
その事実にルナはギリリと歯噛みをする。
しかしルナは耐えた、プライドの怒りからくる頭をクラクラさせるような熱い熱を何とか抑え、自分を諌め、そしてより冷静さを取り戻すために認めるのだった。
黒の剣士は───強い。
大砲とは驚いたが、こんなに小さくても噂通りに超越者を倒せる力を持っているのだ。
使徒を倒してきただけ、その方法を、技を練り上げてきているのだ。
だからもう油断はしない。
ただの人間と侮らない。
黒の剣士を、そして後ろの狼もだ。
ルナはその気配から、視線から、背後にいるホロが何かしら狙ってきているのを感じていた。
超越者の力のおかげとは言え、ルナも数百年生きて、その時間の中で積み上げてきた物がある。
それは普通の人には無い、戦うための戦士としての感覚だ。
元は領地を国から任された領主であり、騎士だったルナは、幼少の頃よりその感覚、戦うすべは教え込まれたし、実際に戦争にも行っている。
超越者になった後でも、その時の経験は忘れてはいない。
目の前の多くの使徒を殺し、幾多の死線を潜り抜けてきた黒の剣士には及ばないかも知れないが、ルナにも研ぎ澄まされた感覚と言う物はあるのだ。
使徒と言えど、力を手にいれて死んでしまうような間抜けだっているが、ルナは自分は違うと思っていた。
確かに油断が招いて、足を失う結果となってしまったがまだ終わった訳では無い。
今は身を起こせない状態になってはいるが、しばらくすれば足も再生するし、痛みも普通の人間に比べたらそこまでの苦痛は無い。
だから痛みで行動が止まる事もない。
だからこれは窮地でも何でも無いのだ。
あの狼は、今の状況を鑑みて殺せるチャンスだと思ったのだろう。
確かに今殺さなければ、ここで逃げてもまたルナに捕まってしまえば、今度こそ殺されてしまう事が分かっての選択だろう。
何故ならこの状況は黒の剣士がいたからこそ起こった、言わば奇跡のような物だからだ。
あの狼にはそれが分かってるからこそ、このチャンスを逃したくないのだろう。
二人…いや一人と一匹をこの状態で相手するのは、少々厄介かも知れないが、逆を返せばあの狼が逃げないのは好都合だ。
今この急場を凌ぎ、足が再生さえすればこちらのものだ。
足が治った後で、じくっりと今度こそ食らってやる。
ルナはそう考えると、ホロの美肉を想像し、自然と舌舐めずりをしてしまう。
しかし意識は最大限に集中して二人の出方を探っていた。
探る事は怠らなかった。
目の前の黒の剣士の動きを見逃さないようにしっかりと見据え、後ろのホロには些細な振動も聞き逃さないように大きな耳を向けていた。
元人間とは言え、熊のような姿の超越者になった事からルナもまたホロのように獣なみの感覚も兼ね備えていたのだ。
それに加えて戦士の勘も加われば、ルナには隙は無かった。
意図せずだったが、あの狼の前では力に溺れた間抜けな道化の振りをしていたから、獣の姿になれてもとろい人間には変わりないとあおの狼は判断したのだろう。
馬鹿め…いつでも来い。
飛びかかった瞬間捕まえてやる。
ルナはそう思うと、口の端をほんの少し上げ意識を後ろへと集中させる。
しばしの間と静寂。
時間にして一秒にも満たない時間だったが、集中していたルナにとってその時間はとてもゆっくりに感じられた。
風になびく草木の葉ずれの音。
黒の剣士の息づかいに、鎧がきしむ音。
そして───地面が弾ける音。
その音を聞いた瞬間だった。
ルナは脊髄反射に近い速度で両手を万歳の如くあげると、一瞬で間近に迫ったそれを掴んだ。
栗色の毛皮に包まれた巨大な獣。
そうホロを、背後から飛びかかったホロをルナは後ろを向いたまま見向きもしないで、自分を噛みつこうとした獰猛な牙を覗かせるアギトを鼻先を、その巨大な毛むくじゃらの手で鷲掴みしたのだ。
「ぐうう…」
鼻先を捕まれたホロは苦し気に呻き、それでも何とか前足で引っ掻こうとするが、鼻先を巧みに押さえ込まれ上手く力出せず大した攻撃は出来ない様子だった。
「おっと動かないで下さい!」
ルナがホロの鼻先を掴んだ時、黒の剣士がその隙に切りかかろうとしのを敏感に察知したルナは、再生し始めている足を地面にドスン! と力強く叩きつけ黒の剣士を牽制する。
黒の剣士はそれに忌々しそうに舌打ちをすると、再び付け入る隙を伺うように剣を構え直す。
その間もホロは前足でルナを引っ掻こうとしていた。
しかしそれで熊の厚い毛皮に覆われたルナにいかほどの効力があるのかと言うのか? それは火を見るよりも明らかだった。
しかしホロはそれでもと言った感じに、足を伸ばし引っ掻こうとする。
まるでそのある一点を狙っているかのように、ルナの額に足を伸ばすのだった。
そのホロの行動を見てルナは察する。
「ははあ…狙いはこれでしたか…なるほどなるほど」
「な、何の事じゃ…? くふ」
「知らない振りしても無駄です。貴方の狙いは額のここ、そうつまり私の本体と言う訳だったのですね」
ホロはほんの少しの笑いを混ぜて、ルナか何を言ってるのか分からない体を取るが、しかしルナはそんな芝居は無駄であると示すかのように言うと、ルナの額にある蠢くもの、人の上半身を模したそれは突如独立したかのように動き、体を捻ってホロにはっきりと視線を合わせる。
まるでそこにルナの意識があるかのように、ホロを見据えてニヤリと笑うのだった。
「いつから気づいていました?」
その額についている、獣じみてはいるが、どことなく変身する前のルナに似たそれは、そんな質問を投げ掛けてくる。
それにホロは目にほんの少し悔しさ滲ませると、諦めたかのように嘆息し口を開く。
「傷じゃ」
「傷…?」
「そうじゃ…お前はわっちが噛んだ指の傷や足の傷を驚くべき速さで治していたが、その体に付いた傷だけは治りが遅いように見えての…」
「はて傷? こっちの体に傷など負ってはいないと思いましたが…」
「狼の目のを舐めるな…ほんの少し引っ掻き傷があるぞ? 大方木の枝か何かに引っ掻けたのじゃろう…」
「ほほう…そんな傷がいつまにかありましたか…それはそれは教えてくれてありがとうございます…しかし狼の目は凄いですな。こんな些細な変化が分かるとは」
「くふ、じゃろう…?」
「…しかし、それも徒労に終わる」
「ぐ…」
ルナはそう言うと、ホロの首を肩にかけて身を起こす。
その形で担がれると、もう前足もルナの弱点と思われる額の本体に足は届かない。
ルナの背中越しに弱々しくもがくホロの足。
対してルナの牙のすぐ近くには、無防備なホロの首筋があった。
それを見てルナはニヤリと笑うと。
「本来なら…生きながら引き裂いて悲鳴を楽しみながら食べたいところでしたが、こうなって仕方ありません。貴女から先に死んで貰うことにしますか」
そんな圧倒的な有利な状況下、ルナは勝ち誇ったように言う。
そして真横にあるホロの首筋目掛けて口を大きく開くと、今まさにホロの命を食もうとしている牙が、唾液にまみれた牙が糸を引き、まるで蛇の毒牙から流れ落ちる毒の滴のように、ぽたりぽたりと滴りホロの自慢のつややかな栗色の皮を湿らせ汚す。
ホロはその事に狼のままながら嫌そうに、殊更嫌そうに顔に苦渋のシワを刻み低く唸る。
そんなホロの様子が嬉しかったのか、ルナは口を開きながら漏らすように笑う。
ルナは感じていたのだ完全な勝利を。
そして今この時、美しき狼の女神の美肉を食う事をもはや邪魔する存在いない事に、勝ち取った事に、凄まじいまでの征服欲が全身を満たしていくのを感じた。
舌先がホロの毛皮に触れる度体が震えるのを感じた。
腹の底から快感が噴き出すように込み上げてくるのを感じた。
これは───この感覚はビシェルの肉を食った時の───。
ルナの思考はその瞬間完全に飛んだ。
飛んでいた。その溢れるばかりの欲望───性衝動にも似た感覚がルナの頭の中を「早くホロが食いたい」それだけで埋め尽くした。塗りつぶした。…支配した。
それがほんのわずかだったがルナの思考を完全に止めた。
ルナはホロを食べる前に既に悦に入っていたのだった。
ピクピクと顎を震わせながら白目を剥きながら、ルナは絶頂に近い感覚を味わっていた。
だからホロのそれに気づかなかった。
ドン! ルナが気づいた時は鼻先に強い衝撃を受けた後だった。
ホロは首だけを動かし、ルナの鼻っ柱目掛けて思いっきり叩いてやった。
それに退け反り、痛々しい鼻血をほどばしるルナ。
予め気を付けていればそれほどの攻撃など本来何とも無いルナではあったが、しかし不意と重なって、しかもホロの肉を味わうために最大限そこに集中していた事が災いして、痛みをそこまで受けない本体では無かったのに、本体と同じくらいの痛みを受けてしまい、流石のルナも痛みで仰け反ってしまったと言うところだった。
「お、おのれぇ…」
自身の油断が招いた事とは言え、このやり場の無い怒りはやはり目の前の狼にぶつけるしか他無い。
ルナはそんな身勝手な理屈をまとめると、その後の言葉に「無駄なことを…」と言い再び食む事を決める。
何故なら確かに不意打ち食らって少々の痛手を負ったが、だがしかしそれでもホロを掴んだまま離さなかったからだ。
なればホロの頭突きなど、一矢報いた程度の、これから引き裂かれ食われるだけの弱者がやった見ているだけで可哀想になってくる、そんな何も変わりはしない憐れな抵抗、それだけの事だ。
ルナは自分に言い聞かせるように頭の中で呟く。
そう何も変わりはしないのだ。
ルナは本気で思った。
そう思ったのだ。
しかし────。
だがしかしホロはそんなルナにさらに驚くべき事をする。
突然感じるルナの口元に感じるホロの毛皮の感触。
ホロは自分の首筋をまるで捧げるかのようにルナの口に押し当てるのだった。
一体何故────!?
ルナはいきなりの事に思考がまとまらなくなる。
ホロがそんな事をする意味がまるで理解できず、口元に押し付けられた毛皮のせいで情けなくフガフガと声を漏らしていた。
そしてホロが何故そんな事をしてたのか、すぐに理解する。
自分の鼻先を伝う感触が教えてくれた。
巨大化したルナにとってその感触は、余程注意しなければ気づかない程度の物だったが、今は驚きではっきりとそれが分かる。
おぼつかないながらも自分の鼻を一歩一歩それでも大胆に踏みしめていく、人が歩いていると言う感触がはっきりと分かった。
自分の鼻先を橋代わりにして歩くその人物がいた事を。
「うおおおおおお!!!」
それはロレンスだった。
ホロの頭の何処かしらに潜み、この機会を伺っていたに違いない。
ホロに注意を向けて、ロレンスにルナの本体を攻撃させるために。
それが狡猾な狼が仕組んだ絵図だったのか。
ただの人間、しかも非力な商人何かに決めてを託すのは信じられない選択だが、ロレンスが折れた銀の短剣を持っているのが何よりの証拠だ。
ロレンスはルナの本体である額の人型を攻撃しようとしているのは明白だ。
「小僧…!」
してやられてた事に、自然とルナはそう口漏らしてしまう。
しかしすぐに冷静になる。
だからと言ってどうと言う事があるのだろうかと、ルナは瞬時に冷静になって考えるのだった。
肉を切ったりするのは、刃物があっても難しい物だ、まして折れた短剣で戦士でもないロレンスが、こんな足場の不安定な状況で例え本体であるこの人型にたどり着いても、いかほどのダメージを与えられるだろうと言うのだ。
正味な話、この本体が何となくルナ自身の弱点であるようには感じてはいたが、ここ数百年、と言うより一度もこの本体を傷つけられた事は無かったので、実際ここを攻撃されたり、完全な損壊をしたら死ぬのかどうかは自体自分にもよく分からない事だった。
だから必死になって守る必要もよく分からない事だった。
だからこのままロレンスなど無視して、ホロに完全に止めを刺すのを優先した方が良かったかも知れない。
しかし、確かに額の人型にははっきりと分かるくらい意識が集中してるし、この人型は些細な傷でも人間の時のように痛みを感じる部分である事を同時に知っていたルナは、ホロに噛みつくよりも、ロレンスを振り落とす事を優先した。
正直頭で考えた結果ではなく、痛覚を持つ生き物だったら反射的にやってしまいそうな、痛みから身を守るために無意識にロレンスを振り落とそうと顔を横に振ろうとした。
しかしまたもそれを狙っていたのか、ホロがさせまいと、鼻を押すように首筋を押し付けてくるので、ルナは堪らず仰け反ってしまう。
しかしそれが逆に幸運だったか、ロレンスは急に仰け反った事から、足が地面を、ルナの鼻先を離れ宙に舞い、そのまま自由落下するように落ちていってしまう。
それを見てルナは思わずに入られなかった。
馬鹿な女だ、非力なただの人間などに頼るから、と自分に迫るロレンスをぼんやり見つめながらそう感じるのだった。
自分に───近づく───?
自分が仰け反ったからその方向に落ちてくるロレンス───!?
「主よ!!」
ルナが迫ってくるロレンスを見て、体当たりしてロレンスを落とした事も罠だと気づいた時には既に遅かった。
かわしようがなかった。
だがただの商人がこんな戦士でも難しいこんな空中のそれも落ちるすれ違いに攻撃するなんて───。
ルナは商人のロレンスに、いやただの人間などにそんな事は出来るはずが無いと強く思った。
しかし───。
しかしロレンスはホロの呼び掛けを聞くと、今まで恐怖で閉じていた目を開きしっかりと両手で銀の短剣を握り直し、こちらに向かってくる様を見て、そのロレンスの確固たる決意の様を見て、ルナは再び自分の考えが間違っていた事を知るのだった。
そしてその直後、自身の体に冷たい物が潜り込み、その冷たい物が自分の体を下に向けて伝っていくと、最初に潜り込んだ位置からぱかっと開いていくような感触を感じた。
そしてぶしゅっ、と温かい液状の物が噴き出ると、冷たい物が伝っていったその場所が、まるで赤銅で焼かれたようなそんな熱さが苦痛が走る。
その瞬間ルナの口から───。
ぎゃああああえあああおおあえががぎぎごごええ───!!!
先程まで勝者を気取っていた者とは思えないほどの恥も外聞もない、酷く、とても酷くみっともない、声にもならない声でルナの額についた人型は月に向かって叫ぶように咆哮するのだった。

続く

 

・次回

制作中

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