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狼と香辛料xベルセルククロスオーバー小説、ガッツ「お前に鉄塊をぶちこんでやる」ホロ「!?」 その10

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狼と香辛料ベルセルクのクロスオーバー小説です。

狼と香辛料ほんわか御伽話風の雰囲気を、ベルセルクのグロさが多少壊してしまう感じになっていますが、それでも良いって方、興味が湧いた方は是非是非読んで下さいませ。

 

・前回のあらすじ

あわやルナに食い殺されそうになってしまったホロだったが、寸での所で、黒の剣士ガッツの攻撃がそれを止め助かる事が出来た。

そしてロレンスは、ホロが、ルナに殺されたヨイツの仲間の仇討で戦うなら、例え敵わなくても一緒に戦うつもりだったが、しかしホロは仇よりもロレンスとコルの命を大事に思い逃げる事を選択する。

しかしそれを察知したルナはコルを踏みつぶし、逃げようとしたロレンスたちの前に立ちはだかるのだった。

 

【昔日の恐怖】

「いやあ残念でしたな」
今だびちびちと、吹き飛んだ土塊が降りしきる中、それは言った。
残念だと。
残念にした、残念にした原因がそう言ったのだ。
嫌らしく、忌々しく「残念だ」と。
「くく、何とも無念な顔だ、そんなに逃げられなかったのが残念でしたか?」
そして、それはさらに言葉を続ける。
「それにしては無念すぎる顔だ」
わざとらしく。
「何か大事な物…いや、者を失った時のような顔していらっしゃる」
心を抉るように。
「そう言えば、もう一人見当たりませんね。なんと言ったか…ココココココ…」
煽るように。
「まあ、名前でもどうでも良いですか…とにかくその方はどこに行ったんでしょうね?」
舐るようにルナは言い。
そして。
「もしかして【ここ】かな?」
と、足下をグリグリと踏み潰す。
ロレンスとホロに見せつけるように磨り潰す。
コルがいたそこを。
それを見たロレンスは、コル旅してきた事を、その時あった事が、脳裏に鮮明に浮かんでくる。
そしてその記憶が、ロレンスに更なる無念を味会わせるのだった。
「く…! ぐくく」
ロレンスはその無念から、腹の底から出たような、悔しさを滲ませたような呻きを漏らす。
「おや…どうしました? そんな顔をして、そのような顔を人に向けては、商人失格ですよ…?」
「どの…口が…!」
「おお怖い怖い…怖くて腰が引けてしまう…おっとと」
ロレンスが怨嗟の声を滲ませルナに言うが、ルナはそんな声などそよ風のように、怖がる振りをして、後ろにのけ反る。
そしてまるで、どこかのサーカスにいそうな、間抜けな道化のように、後ろにのけ反り過ぎて、転びそうになるフリをする。
その小山より大きい巨体を揺らして、それをやるのだった。
人をバカにするように、煽るように、嘲り笑うかのように、ルナは道化を演じ続けた。
そしてそんな事をやっていたら、本当に転びそうになったのか「お!」と、少し驚き混じり含んだ声色で言うと、一際大きく片足をドスン、と重々しい音をと共に地面に、踏ん張るようにつけて、転ぶのを耐えるかのようにする。
「おっと危ない危ない…本当に転びそうになってしまいましたよ。ここの地面は思ったより柔らかいようですね」
そうルナは、その恐ろしい熊の顔に、人間臭い照れ隠しのような、笑みを浮かべておどけたように言うが、もはや今のロレンスにとっては、ルナのやる全てが不快の対象だった、怒りの対象だった。
今ルナに何されても、どんなことをされても、土下座して真摯な姿勢で謝っても、その全てがロレンスの癇に障らせ怒りを誘うだろう。
「うああああぁぁぁあああーーー!!!」
だからロレンスは叫んだ。
ルナのやる全ての行動が、目に映る全てが許せなかったから。
許せないなんて、理性的な文字すらでないほどロレンスは、怒りの猛りを咆哮した。
しかしその時だった。
ロレンスは後ろから押される感覚を覚える。
そんなに強い力では無いが、確実に何かがロレンスの背中を押したのだ。
それにロレンスは怒るのを、猛るのを邪魔されたような忌々しい感覚から、一体誰だ! と睨みながら力強く振り向く。
するとそこには、狼化したホロの巨大な鼻先があった。
それを見てロレンスは一瞬冷静になる。
少しなった。
しかし、今だ冷めやらない、熱せられた赤銅のような怒りは、それだけでは焼け石の水だと示す如く、そんなホロを見ても「何だ!!」と声を荒げさせるのだった。
そして激情のまま、流れようとする、流れたいロレンスは、ホロにそれを邪魔させないようにと、思考が定まらないその頭で、その頭から発せられるその言葉で、何を言いたいのか、何を言えばいいのか分からないのに、何かホロに文句を言おうとした。
言おうとしたのだが。
ホロの言ったそれが、止めた。
その言葉がロレンスが喋るのを止めさせた。
「主だけは…冷…静に…!」
ホロはそう言った。
震える声で。
悔しさが滲む震える声でそう言ったのだ。
そのホロの喋り方が。
ホロの様子が。
ロレンスから、先程まで感じていた、灼熱のように赤熱ように感じていた、そんな腹の底から迫り上がる、熱味を帯びた怒りが、すーっと抜けるように、冷えるように消えた。
一瞬で、ロレンスに冷静さ取り戻させたのだ。
その痛々しいまで怒りを我慢しているホロを見て。
実際のところ、もしコルが死んだら、俺よりもきっとホロの方が辛く、哀しみ、怒るだろう。
道中では、まるで弟のように、我が子のようにコルの事を可愛がっていたのだから。
それが殺されるどころか、その遺骸すら、乱暴に滅茶苦茶に踏み潰され、磨り潰されたのだから。
俺ですらそれに、理性を失うほど怒ったのだ、ホロはもっとのハズである。
しかしホロは怒らなかった。
寸でのところで耐え、自制を保っていたのだ。
そんなホロを見れば、見てしまったら、怒る訳にはいかない。
ただ怒りに呑まれる訳にはいかない。
寸でのところで耐えているホロよりも、さらに冷静に沈着にならねばいけないだろう。
自分を殺し、自分を保ち、そして自分が今何を出来るのか? はっきりとした明確とした、やるべき事を見いださねばいけない。
「すぅ……はぁぁぁ…」
ロレンスは目を閉じ、深く深呼吸をして、怒りで熱ぼったさを感じる頭を再起動させる。
そして静かに目を開けると、意を決するように口を開く。
「逃げるぞ…と言いたいところだが、奴は足を切られたハズなのに、何故あんなに動ける…?」
そして冷静に見分して、その謎。
ルナが何故黒の剣士に足を切られて動き回れるのか、その事を聞く。
それにホロはチラリとロレンスを見ると、ふっ…ふっ、とやはり怒りで興奮しているのか、そんな感じの息づかいを少々漏らす、そして語り出す。
「奴の切られた足、血塗れでありんすが、すでに血は止まり、傷も塞ぎかかっているように見える」
「傷が…塞がるって、再生してるのか!?」
「恐らくの」
「何だって…それじゃどうやっても倒せないって事なのか」
勿論元々倒す気などは無かったが、傷を負わせても治ると言う、跡形もなく治ってしまうと言う事実に、がっくりとする物をどうしても感じてしまう。
それは黒の剣士が少しでもルナに傷を負わせられる事に、少しながらの期待を感じていたからだ。
体格さから致命傷を負わせられなくても、少しでも傷を負わせられる事で、蓄積する事で、ルナの動きを鈍らせられる事に、ほんの僅かだが、それに期待していたからだ。
それが駄目となっては、作戦の立て直し、いやそもそもホロは足の怪我を負っているのだ。
対して、森の中ルナを置いて逃げていた時、ルナはそんな俺たちを飛び越して、逃げた先に現れる事がおそらくできたのだ。
恐ろしいまでの跳躍力。
そんな跳躍が出来る脚力に、足に傷を負ったホロが逃げ切れるのだろうか?
「顔に焦りが出てますねぇ…良い表情だ」
不意に頭上から聞こえる不快な声。
ルナだった。
ルナニタニタしながら言葉を繋げる。
「私はもがき苦しみ、それでも足掻こうともがいている人間の顔も好きなのです…良いでしょう、その顔に免じて、貴方に考える時間を少し与えましょう…そうですねあの雲が月にかかるまでの間はどうですかな?」
ルナは、その動かすだけで大きな音を出す巨大な腕を動かし、月より少し離れた雲を指差して、そう言うのだった。
嫌らしい笑みを張り付けたまま。
ニマニマ、ニマニマと。
「それまでに、私からどうやって逃げるか、考えて見てください…くく」
「く…!」
余裕から来る白々しい免除に、ルナの嫌らしい笑みが苛立ち誘う。
「…冷静に、くれた時間じゃ…最大限に使え…全てを利用するのじゃ」
「…分かってる…!」
そう分かっている、自分は理解している。
考えるんだ、この少しの時間で、ルナから逃げる方法を、どうすれば逃げられるかを。
ロレンスはとにもかくにもと言う感じに、まずルナの体を見渡した。
ルナの体は巨大と言う畏怖を抜かして見れば、ただ熊がそのまま異常に大きくなっただけの体だった。
ただの熊だった。
しかし。
だがしかし。
そのままよく見てみると…。
見続けてみると。
「主も気付いたか」
何かに気付いたような顔が表に出てたのか、ロレンスはルナのある一点の部分に視線を注視させていると、不意にそうホロに声をかけられた。
ホロもロレンスと同じ物を見たのだ。
いや目の良いホロなら、ロレンスが気づく前に、もう見ていたかも知れない。
その視線の先、ルナの額の辺りで蠢くものを。
月明かりのみが頼りの、薄暗い夜の視界だから、はっきりとそれがそうであると断言は出来ないが、それは人のようだった。
人の上半身見たいな物が、巨大な熊の姿になったルナの額の辺りにあったのだ。
もしかしたら単なるデキモノ見たいな物かもと一瞬思ったが、人のように身ぶり手振りをしているのが、それを否定した。
変身したルナの額には、熊とは明らかに違う物がついていたのだ。
いや、そもそもロレンスが持つ熊の姿やそれに関する知識は、旅先でチラリと見た程度か、人から人へと伝えられた口伝で聞いたのがほとんどだったので、実際の熊の姿など、正確には分からない。
うろ覚え程度にしか分からない。
なので、もしかしたら実際に見た熊の形と言うものは、ロレンスの記憶にある物とは、細かいところで違うのかも知れない。
だがしかし。
あれは───あの姿は、例え記憶に細かな差異があろうとも、あそこまで逸脱した物がついてるのは違うだろう。
一度ホロがロレンスに、己の手だけを変えて、狼化する姿を見せてくれた事があったが、その時の変化は、手をそのまま巨大化する物であったし、その後も今のように、全身を巨大化させても、ルナの人間の体のような獣以外の別の何かがつく事は無かったと思う。
それから見ても、やはりルナとホロは、同じく巨大な獣の姿になれても、違う存在なのかも知れない。
違うどころか、あんな人の姿をしたような物が、熊の額に溶け込むようについているその姿は、教会の宗教画に登場していた、二つか三つの別な生き物を合わせて出来たような、この世の物とは思えない生き物、悪魔と同じ様な物のように見えた。
ともあれ、そんな事が分かったところで、この巨体、しかも傷を瞬時に直してしまうような化物に、普通の熊と見比べて、少し体に違いがあると分かったところで、今は何か役に立つとは思えない。
ルナに考える時間を貰ったが、その時間で、ルナの巨体を調べても何も思い付かない。
思い付かないどころか、考えても、どう知恵をひねくり回しても、何をしても無理と言う結論にしか至らない。
一体どうすれば、足を怪我したホロと共に、こんな巨大で俊敏な奴から逃げる事が出来るのかと、その事を。
「参ったな…何も思い付かないぞ…」
自嘲気味な薄ら笑いを浮かべてロレンスはそう言うのだった。
まるで本当に諦めてしまったかのように。
「ふむ…主はお手上げと言うところか…」
ホロはロレンスの言葉に嘆息したように言う。
「逆に聞くが、賢狼のお前なら、この状況で逃げられる良い知恵はあるか?」
「ままならぬの…」
即座に返される賢狼の否定の返答が、いよいよ駄目なのだと感じさせる。
「…だろうな」
そのホロの言葉に今度はロレンスが嘆息するように、短くそう言うのだった。
そしてその時だった。
その時辺りの光がほんの少し弱くなった。
見れば月に雲がかかったのだ。
ルナの指定していた雲が、指定通りの形で月にかかったのだ。
それが光を奪い、そして時間が来たことを告げる。
ルナに与えられた時間が尽きたこと。
「くく…さて良い案は浮かびましたかな? まあもっともその答えはもう出ているようですがね」
「「…」」
ロレンスとホロは、その事が分かってて言うルナの問いに沈黙で返す。
「…おやおや…万策つきすぎて言葉もないと言った感じですか」
ルナはそんな二人の諦観しきった態度に、失望したかのように嘆息してそう言う。
そして一つ、つまらなそうに鼻で笑うと、こう告げるのだった。
「こちらから趣向を凝らしたから、貴方たちが諦めてしまっても、まあ最後までやってあげましょうか…貴方たちは逃げるのを諦めたのですね? ならば…」
「いいや」
ルナの言葉を潰すように答えたのはロレンス。
喋るのを、ロレンス【ごとき】に邪魔されたのが気に障ったか、ルナは片目を少々吊り上げ機嫌を悪くする。
しかしロレンスが何故そこで否定の言葉を出したのか? まだ何かこの状況を覆す手があるのか、怒りよりもそれが気になる。
だから聞くことにした。
それでも傲岸不遜気味な声色で。
「…? その言葉は、まだ私に抗おうと言うのですか? ほほう…矮小な貴方たちごときに、一体どんな魔法を使えば私から逃げられると?」
その言葉に、ロレンスとホロはニヤリと笑う。
自信ありげに笑うのだった。
その態度にますます分からないもの感じるルナは、ついにおかしくなったのかと、首を傾げる。
「恐怖のあまり気でも触れましたか? 私は変身しても、恐怖のあまりおかしくならないように、言葉遣いはより人間らしくなるよう心がけているんですがねぇ…それでもおかしくなってしまったなら残念だ…正気を保ったまま恐怖にかられる者を引き裂き食うのが楽しいのに…」
「たわけ」
「…!?」
悍ましい欲望を赤裸々に語るルナに、まるでそんな気色の悪い物など聞きたくもないと示すように言葉を潰すように、叱咤したのはホロ
「わっちらは別におかしくもなっておらんし、諦めてもおらんわ、このたわけが」
「ほ、ほう…大した言いぶりですが、ですがこんな状況で本当に逃げられると思ってるのですか?」
「ああ思ってるのぅ…」
「く…」
ホロのあくまで崩さないその気宇壮大な態度に、さすがに苛立ちを感じたかルナ
は歯噛みして、二人を睨めつける。
「だったらァ…やってみて下さいよ…その瞬間ミンチにして差し上げますからァ…」
苛立ちがルナの言葉から、徐々に品性を失わせているのが感じられる。
しかしそんなルナに対しても、ホロの態度は微塵にも揺るがず、ルナを怖れず、鼻で一つ失笑すると、ホロはこう言うのだった。
「いや言う事は出来るが、やる事は出来ぬなぁ…」
「? 何ですかそれは…結局何も出来ないと言う事では無いですか……!」
ホロの言葉を負け犬の遠吠えと取ろうとした、ルナは寸でそれを思いとどまる。
「ははあ…なるほど貴方たちの【狙い】はこれですか」
ルナが悟ったように呟いた瞬間、ルナの右足から血飛沫が上がる。
大きく太い剣が振り抜かれたのが見える。
そう黒の剣士が、またも隙を伺って、ルナに攻撃を仕掛けてきたのだ。
「なるほどなるほど…わざと貴女に意識を集中させるためにあの会話を…だがしかし」
ルナはニヤリと笑う。
勝ち誇ったように嫌らしく笑う。
「聡明な貴女なら見て分かってたと思いますが、この程度のかすり傷位なら瞬時に治す事が出来るのですよ…そして最初に斬られた時は、驚きで崩れてしまいましたが、来ると分かっていれば、この程度の痛み我慢する事が出来ます…言っている意味が分かりますか?」
「ふん…多少の傷程度なら、脚力が落ちる事はない…そう言う事であろう?」
「そう言う事だ…つまり」
ルナはそう言うと前屈みになり、 足に力を込める。
沈む足が、その重さとどれだけ力を溜めているかを、何をしようとしているのかを物語った。
そうルナはホロに飛びかかろうとしているのだ。
今度こそ食らうために。
そしてそうなれば、勿論ホロの側にいるロレンスも、ルナの巨体に圧殺され、文字通りのミンチになるだろう。
ロレンスの頬に、一筋の冷たい汗が走る。
「これで王手です。今度こそ貴女の媚肉を堪能させて貰いましょう」
「良いじゃろう…やれるならな?」
「…ガァ!」
最後までその気丈な態度を崩さなかったホロに、その気に食わない態度を続けたホロに、頭に来たのか、ルナは人間らしい態度を崩し、獣のような声を上げ飛びかかった。
そして踏みしめていた地面が爆ぜる。
大爆発が起きる。
またも泥が舞い、草木が飛び交う爆発が起きる。
そしてルナはそのまま倒れた。
突っ伏すように前のめりに倒れた。
ルナは飛びかかるではなく、倒れたのだった。
その倒れ込んでくるルナに、ホロはロレンスに自身の体を掴ませ、まて飛び退るように、倒れてきたルナをかわす。
「な、何が…」
ルナは自身が何故倒れたのか分からなかった。
感じるのは猛烈な足の痛みと喪失感。
見れば足が無くなっていたのだ。
一体何故!? 流石のルナも、突然の出来事に理解が追いつかず、明らかな焦躁を顔に浮かばしていた。
そして頭の中で、サイレンのように繰り返し鳴り響いている、一体何が起きたのかと言う分からない恐怖。
そうルナは数百年ぶりに恐怖を感じていたのだ。
「分からぬか?」
そんなルナをはっとさせる声がする。
声の主はホロだった。
ホロは、足を失い立てないルナを、静かに見つめそう声をかけたのだ。
それにルナは、また底知れぬ恐怖を感じたのか、半狂乱になってわめき散らす。
「きききさま、貴様! 貴様! 貴様! いいいい一体何を!!! 私になな何をしやがった!!!」
完全に落ち着き無くし、ジタバタしているルナの姿を見ると、ホロは勝ち誇ったように、ニヤリと笑う。
そしてルナに分かるように言うのだった。
「たわけめ、焦ると回りが見えなくなるところは確かに人間と言ったところかの、ここまで立ち込める匂いに気づかなくなるとはな」
「匂い…?」
そこでルナはみっともなくジタバタするのを止め、匂いを嗅ぐように、鼻をヒクヒクさせる。
「これは…火薬…!」
その事に気づいたルナは、素早く足元を見る。
すると、黒の剣士の手の付け根辺りから、硝煙のような煙が出ているのが目にはいる。
「く…まさか…義手に大砲だと…?」
そう黒の剣士は、義手に仕込んだ大砲を撃ち放ったのだ。
「く…貴様ら…黒の剣士がこんな攻撃が出来ると知ってて、それを狙っていたのか…!」
ルナはしてやられた事に歯噛みするのだった。
しかしそんなルナとは裏腹に、ホロの答えは意外な物だった。
予想外の物だった。
「そんな事など知るかたわけ! わっちらは黒の剣士なぞ初めておうたのだぞ?」
「な、なに…だったら何故大砲の事を…!」
「それは全くの運さ…俺たちは賭けたのさ」
それに答えたのは今度は、ロレンスだった。
「う、運…賭けただと…一体何を根拠に、賭けたと言うのだ貴様らは…!」
「お前は言った、黒の剣士がお前と同じ様な存在を狩回っていると、つまり黒の剣士は既にお前のような存在を倒した事があり、そしてそれは【倒せる手段】を持っている事を示している」
ロレンスは力強い態度と声色で、ルナにそうはっきりと言う。
そのロレンスの言葉を聞くとルナは、はっとした表情をして再び問う。
「馬鹿な…馬鹿な…馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!! そんな物は何の証明にもならないじゃないか! もしも黒の剣士の攻撃が私の足を止めるものじゃ無かったら、お前たちは死んでいたじゃ無いか!」
「分かってる…だから賭けなのさ」
そのロレンスの言葉に、ルナは絶句するように言葉を失う。
そして自分に言い聞かせるように言う。
「そんな…商人が賭け事に全てを委ねるだと…そんな馬鹿な話が…」
「お前はやはり商人では無いな…商売も博打みたいなものさ、だから損得が見えない物にでも賭けて前に進む時だって商人にはあるんだよ」
「…! く…舐めた口を…例え足が無くなったくらい、お前など手を振り上げただけで捻り潰せるのだぞ…!」
そう言ってルナは倒れたまま手を振り上げる。
しかしそんなルナを見てもロレンスは怖れずもせず、こう言うのだった。
「そんな事より自分の心配を考えた方が良いんじゃ無いかな?」
「…何…!」
ルナはロレンスが見ている視線の先から、言っている意味を理解して、首だけ動かして自身の背中を見る。
そこにはいつの間にか、月光の光で鮮やかに黒光りする甲冑を着こんだ剣士が立っていた。
黒の剣士が立っていたのだ、ルナの背中の上に立っていたのだ。
あの凶悪な巨剣を携えて。
「きさ…!」
ルナが何かを言う前に、黒の剣士は既に剣を突き立てるように振り上げていた。
そしてザクっと刺さり、ズズズと刃が深々と突き刺さっていく。
「ぐげぎゃええええええああおお!!!」
とたんに上がる、何を言ってるのか分からない意味不明な悲鳴、絶叫。
しかし黒の剣士はそんな事はお構いなしに、大量の血飛沫を上げさせながら巨剣を引き抜くと、またザクリと深々と突き刺す。
「あひょえほほほほほほほおおお……ぎげげけげぐごご!!! ……ふひょほほほほおおおお……ひぎぎぎぎぎご!!!」
黒の剣士は本当に容赦なく、剣を抜いたり刺したりを繰り返した。
その度に吹き出る返り血で、黒の甲冑が赤に染まっても、繰り返した、ザクザクと繰り返したのだった。
「く…! くひょぉ!! ちょ、調子に乗るなよ人間が!!」
ルナはそんな黒の剣士の攻撃に、堪らず、体を捻り転がして背中にいる、黒の剣士を押し潰そうとする。
しかし流石こんな化物と何度も戦ってきた事だけはあるのか、ルナの意図を瞬時に察知し、仰向けになる前に飛んで、潰されるのを回避する黒の剣士。
「おのれ…おのれ…」
背中を刺された痛みからか、怨みを孕んだ声で、黒の剣士にそう言う。
そして仰向けになったルナの意識は、完全に黒の剣士に向けられていた。
好機だ───ロレンスは逃げるなら今が絶好の時節だと確信した。
だからホロに言った。
「ホロ…! 今のうちに逃げるぞ!」
そして直ぐ様、ホロの体にしがみつく。
しがみつき、あの走る時の恐ろしいまでの疾走感に耐えるため、目を閉じ、体を縮こませ、しがみつく手に力を込める。
力を込め待ったのだが、その疾走感はいつまで経っても来なかった。
「ホロ…?」
ロレンスは薄目を開けてホロと辺りを見る。
見ると、そこは変わらず同じ場所だった。
目の前のちょっと先では、ルナと黒の剣士が変わらず小競り合いしている。
今だ足が再生せず、倒れて尻餅をついてる状態で、腕を振り回し、黒の剣士を近寄らせまいと奮闘していた。
そんな光景が繰り広げられていた。
「ホロ?」
そんな状況に、何故逃げないのかをもう一度問うために、ホロの名前を呼ぶ。
しかし変わらず返事は無い。
「ほ…」
「わっちは考えておる」
三度目の呼び掛けに、ホロは呼び掛けを遮るように言った。
そんな言葉にロレンスはこう言うしかない。
「な、何を」
「奴をここで殺すことじゃ…!」
「…!」
唐突に出たそのホロの言葉に、ロレンスは言葉を失うしか無かった。

続く

 

 

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