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狼と香辛料xベルセルククロスオーバー小説、ガッツ「お前に鉄塊をぶちこんでやる」ホロ「!?」 その8

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狼と香辛料ベルセルクのクロスオーバー小説です。

狼と香辛料ほんわか御伽話風の雰囲気を、ベルセルクのグロさが多少壊してしまう感じになっていますが、それでも良いって方、興味が湧いた方は是非是非読んで下さいませ。

・前回のあらすじ

ホロとガッツ、ついに二人が対峙して戦う事になり、凄まじい激闘の末、ついにホロはガッツの巨剣に捉まり、叩き斬られそうになるも、巨獣化させたルナの腕がガッツを吹き飛ばしてくれた事で何とか一命を取り留める。

しかしルナは別にホロを助けた訳ではなく、獲物であるホロを奪われないためにやっただけの事だった。

その上、過去にロレンスの師匠であったフォルクスもまた化身であった事から、ルナに殺されていた真実を知り驚愕する。

そんな中ホロが、何故自分を狙うのか? とルナ問うと、ルナは昔話をするように自分の事を語りだすのだった…。

 

【第8章 古き時代】

 

殴られた…右腕の骨にヒビが入ったか―――
吹き飛ばされた先の木の上で、枝に運良く引っ掛かった片足でぶらぶらと揺られながら、肘を伸ばしたり曲げたりして受けたダメージを冷静に確認する。
その際に痛みを感じるが、もうこの程度の苦痛では呻き声どころか表情にも出ない。
いや、もうどんな苦痛を受けようとも自分を止められる痛みはないだろう。
腕が折れようとも千切れようとも、ただ『振り抜く』そして『奴ら』を倒す。
その一念だけが、自分にこの化物、ドラゴン殺しが振れる理由、訳だと信じていた。
しかし奴らが二匹もいたのは誤算だった。
感じた傷の疼きはそんなに強い物じゃ無かったから一匹だと思っていたが。
さてどうしたものか。
一匹でも死闘以上に死闘なのに、それでもガッツは二匹まとめて殺す方法を模索していた。
幸い追撃はないのは俺が死んだと思ったからか、それならば都合がいい。
…とりあえず2対1より1対1だ。
何にしても手負いのあの狼の方から殺るのが得策だろう。
義手に仕込んだ奥の手を使っても、あの狼は次で確実に殺る…! ガッツは戦いの方向を固めると、吹き飛ばされても離さなかったドラゴン殺しをぐっと両手で握りしめ気概を入れ直す。
「あーらら、酷い有り様だね」
そんな事考えていると唐突に入るあの耳障りな声。
「だから言ったじゃないか、あの狼はガッツが探してる奴とは違うって」
まだそんな事言ってるのかこいつは…。
ガッツはパックの声には取り合わず、腹筋だけで体を持ち上げると、体勢を整えてそのまま地面に向かって降りる。
ドン、と装備の重量からくる重々しい音を響かし、潰れたカエルのような少々不恰好な姿勢で降り立つと、すぐに起き上がりドラゴン殺しを引きずりながら戦場へと戻ろうとする。
「ねえ! ガッツってば聞いてるの!?」
まるで聞く耳を持たない体を示しても、小うるさい妖精はめげずに追いかけ言葉を続けた。
「あの狼は違うんだよ! ガッツが探してるのはたぶん片腕変えたあの男だよ! 感じるんだ俺には! あいつからはガッツが今まで戦ってきた奴らと同じ感じがするんだ!」
何―――? 今まで感じてきた少しばかりの違和感と妙に感じていた弱すぎる傷の疼きがついにガッツの興味を引き、ちらりとパックを見て聞く。
「どういう…事だ?」
やっとこちらに振り向いたガッツに、パックはぱあっと顔に花を咲かせると意気揚々と話始める。
「う、うん、あの狼の方はガッツの探してる奴じゃなくて動物の化身だと思うんだ」
「化身…?」
「森の動物の神様みたいなもんさ。あれは狼の姿をしてたらか狼の神様ってところかな…」
「なんだそりゃ…」
「人にだって神様がいるだろ? それの動物バージョンみたいなもんさ。使徒とは全くの別物だよあれは、だから戦う必要はないだろう?」
「………」
「ガッツ…?」
「けっ、そんな訳あるか…」
パックの言葉を聞いて思った事は結局は否定の二文字だった。
こいつの言う事にどこに信憑性がある? 今は自分がやるべき事は奴らを絶対に殺す事。
切り裂かれようとも、骨が砕けようとも、バラバラにされようとも。
ただ殺る、それだけの思念だけが自分を突き動かしているのだ。
それは絶対に止まらない。
ガッツはそれを今一度再認識して、再びドラゴン殺しを引きずりながら歩み始める。
「ガッツ待ってよ!」
うるせえ。
もう忌々しい妖精の言葉を聞く耳を持つ気はなかった。
―――。
―――だが。
だがガッツは思い返した、あの男の事を。
どう見ても戦士には見えないひょろひょろのあの男。
あんなちっぽけな短剣を抜いて、情けねえ声を上げて、俺に向かってきた。
勝てねえのはわかってたハズなのに。
あいつはどう見ても人間だった。
あいつにとって狼の方はそんなに大事な存在なのだろうか? 命を捨ててでも守りたい―――仲間なのか?
そんな風に考えていると、ガッツの中でとうに捨てたハズの、鷹の団にいた頃の思いでが脳裏にじわりと滲み出る。
遠い懐かしい郷愁の記憶。
ガッツは一瞬物思いに耽ってしまいそうになったが、はっとすぐに自分を取り戻して諌める。
自分にはもうそんな過去を懐かしんでいる暇も資格もないのだから。
その決意を示すようにガッツはバリッ、と強く奥歯を噛み締める。
その思い出を噛み砕くように。
そして足に更なる力を込め力強く歩を進め、ついには吹き飛ばされた森の入り口まで到達する。
すると何やら話し声が聞こえてくる。
会話の内容に興味は無かったが、ガッツは攻める好機を探すべく耳を傾けながら静かに一向に近づく。
近づくと何を話してるのか声が鮮明になっていった。

 

 


「私は元々、大昔にここいらにあった今は無き領地ルナハルトの出身でしてね…」
私はそのルナハルトを治めていたルナハント家の六代目当主、名はルナハント・ベアル・フェルデルミィ・ド・ルナハルトと言いました。ええこう見えても貴族の生まれだったのです。…とは言えあまりに昔に無くなった領地の家柄ですから、時間と共に人の記憶からも風化してしまったその名前には、もはやなんの価値もございませんが…まあとにかく私は国から土地を任された領主だったのです。
その頃は教会の勢力も弱く、そこらに動物の化身を神とする異教信仰の土地柄が多くあり、私が領地を務めるこのルナハルトも異教の神がいました。
ルナハルトの異教の神は熊の化身で、名はビシェルと言い、多くの領民から信仰されてました。
多くの信者を集めるほど強い信仰が根付いていたのは、一重に神であるビシェルが土地の守り神として民の前に姿を現していたからでしょう。
しかもビシェルはホロさんのように美しい少女の姿をしておりました。
彼女の美しい容貌を一目見たものは男女関係なく心酔しました。それほど彼女は見目麗しき美貌だったのです。
かく言う私も幼少の頃からルナハント家守り神として、屋敷の近くにある湖畔で月明かりに照らされる彼女を見ては胸を高鳴らせました。
そう私は、ロレンスさん貴方のように化身である彼女に恋をしていたのです。
しかし恥ずかしながら、女性と話すのが苦手な私は、彼女を遠くから見るだけで話しかける事が出来ませんでした…。
そんな折、その状況を見兼ねて奉公人のロイツが相談に乗ってくれたのです。
彼は子供の頃から身分に囚われず付き合ってきた、唯一、心の底から信頼出来る親友でした。
ロイツは昔から物怖じしない性格で、話を聞くとすぐに私の手を引き、彼女がいる湖畔へと向かい話しかけました。
守り神たるビシェルの前でも自分を変えないロイツに、彼女は「呆れた奴じゃ」と
苦笑混じりに言うと私たちと話してくれたのです。
以来、私たち三人は湖畔に集まって談笑するのが日課になりました。
彼女はちょっぴり意地悪でしたがとても優しく、笑顔が素敵な本当に本当に想像通りの素晴らしい人でした。
私は話すたびにどんどん彼女の事が好きになり、私は毎日が幸せな日々でした。
湖畔に向かうと親友のロイツがいて…彼女が笑顔で迎えてくれる…そんな幸せな日々を…。
しかしその幸せは長くは続きませんでした…教会が勢力を増したのです。
勢力を増した教会は、ついにはこの地方の王の改宗にも成功し、奴らが信じる神を唯一神とし、他の異教の神を排除せよと王に進言したのです。
最初は抵抗らしい抵抗もありしたが、結局は次々に新しい宗教を受けいれ、改宗していないのはあっという間にルナハルトだけになってしまいました。
私は当然彼女を守るために国と戦う覚悟を決めました。
そして戦争に行く前日に彼女に言いました。
もしも戦争に勝って戻る事が出来たら結婚して欲しいと、しかし彼女は困ったように俯くだけで返事は貰えませんでした。
私は照れているだけなんだろうと思い、約束だけして彼女を後にし戦争に向かったのです。
そして国との戦争が始まりました。
圧倒的に数が多い王国軍に、当初はすぐに全滅させられるだろうと思われてましたが、私たちはその圧倒的な力に屈するどころか善戦しました。
私もそうですが、兵士たちも彼女を殺させたくないから頑張ったのでしょう。
とても士気が高く活気づいた兵団だったのを覚えています。
とは言え所詮は少数の部隊、国境を守るだけで精一杯で、攻勢に出る事は出来ませんでした。
毎日が防戦一方の苦しい日々が続き、それが半年を過ぎた頃、夜営地にどこからか旅の占い師が現れました。
無論、敵の間者と思い殺そうと思いましたが、占い師は私に運命を切り開く幸運の御守りを渡したくて来たと、赤く不気味な紋様が浮かんだ卵形の御守りを見せたのです。
その御守りには毒は塗られていませんでしたが、あまりに不気味な形に部下が呪いの道具だから捨てた方がいいと進言してきました。
しかし私にはなぜだかわかりませんが、それがとても引かれる物に見えて、占い師にいくらかの金を払ってその卵形の御守りを手にいれたのです。
占い師はお金を受けとると、御守りを渡す時に「ベヘリット」と、この奇妙な卵形の装飾品の名前を教え、去っていきました。
私はこれで苦しい戦争も終わってくれればと、少しその御守りに淡い期待を抱き、その日は眠りにつきました。
しかし翌日、私は敵の奇襲を受け、戦争に勝つどころか大怪我してしまったのです。
なんとか敵を撃退する事は出来ましたが、私の受けた怪我は下半身に複数の矢を受ける酷いもので、数日間傷による熱で生死の境をさまよいました。
その後、私はなんとか一命を取り留めましたが、意識を取り戻した時は私は己の男自身を失っていました。
私はその事実に悔しくて情けなくて、身が引き裂かれそうな思いに、気が狂わんばかりに身悶え、ついには何が運命を切り開く幸運の御守りだとベヘリットを投げ捨てようと思いました。
その時でした、突然部下がテントに入ってきて王国軍が突然講和を申し出てきたと言う報を聞いたのです。
私は最初部下が言ってる意味がわからずポカンとしてました。
だけどすぐにそれを理解すると、それが今手に握っているベヘリットが引き寄せた事なのかと思い、それに畏怖の念を感じずにいられませんでした。
しかしとにかく戦争は終わりました。
講和に至った要因は単純で、長期内戦の旨味を狙って隣の大国チューダーがちょっかいをかけてきたらしいのです。
それで内戦までかまけていられなくなった国王は、暫定的に宗教の自由を許す事を条件に講和を申し込んできたと言う話でした。
とにかく生き延びた私は当然領地に帰るため帰路につきました。
しかし私の足取りは重かったでした。
当然です。
こんな子供も作れない体になって、どう彼女に結婚を申し込めば良いと言うのか…。
それでも優しい彼女はきっとこんな私でも受け入れてくれる。
私はその一念で奮い立ち傷の痛みを押してルナハルトに帰りました。
半年ぶりに帰ってきたルナハルトに帰ってきた私は居ても立ってもいられず、すぐに彼女がいる湖畔に向かいました。
早く彼女を見たい、早く彼女と話したい、早く…彼女に会いたい。
ルナハルトに入った瞬間、私は全ての不安を忘れ、頭の中はそれだけになりました。
我を忘れた私は息が切れそうになっても走り続けました。
そしてあの湖畔が見えてきて、彼女の姿も見えてくると歓喜の興奮は絶頂まで達しました。
しかし―――だがしかし。
彼女の姿がはっきりと見えると私は別の衝撃を受けたのです。
彼女の腹が膨れていたのです。
子を宿す膨れ方に―――。
なんで、どうして―――? 私の頭の中はそれだけになりました。
彼女は気不味そうな顔をしてお帰りなさいと言いました。
そこで私は我に返り、よくよく見ると彼女の隣で、同じく気不味そうな顔をしているロイツが目に入りました。
そこで私は全てを理解したのです。
ロイツが彼女を無理矢理襲い子をなした事を。
ロイツは、すまないとか好きあってるなどと、意味の分からない事を言っていましたが、そうに違いありませんでした。
私は絶望しました。
愛する彼女を守るために死ぬ覚悟で戦争に行ってきたのに、私がいないところで彼女が襲われてしまったなんて、しかも親友だと思ってた男に。
私はあまりの絶望に胸が張り裂けそうになりました。
狂わんばかりに絶叫しました。
その時でした。
そんな私の深い悲しみにベヘリットが呼応したのです。
そして会ったのです。
神に―――。
ベヘリットは神を呼び寄せたのです。
そして神は言いました。
お前のもっとも最愛の者を捧げるなら全てを叶える力を与えよう、と―――。
私は捧げました。
親友を、そしてそれに汚されてしまった彼女を。
そして手に入れたのです。
全てを叶える力を。
力を手に入れた後、私はロイツを殺しました。
ぐずくずに引き裂いてバラバラにしてやりましたよ。
私を裏切り彼女に酷い事をした奴にはお似合いの末路です。
しかし彼女はそれがなぜか気に食わなかったらしく。
化身の姿に戻って事もあろうに私に襲いかかって来たのです。
可哀想に…きっとロイツに騙されてたんでしょう。
可哀想だから殺す事にしました。
ロイツに汚されてしまった彼女もそれが本望だと思いましてね。
だから私は彼女を殺しました。
とても悲しかったです。
とても悲しかったから、私は彼女を食べました。
死んでも私と一緒にいられるように。
私の体内で生き続けるように。
彼女と一つになるために。
私は…彼女を食べました。
その時でした…涙ながらに口に含んだ彼女の肉が極上に旨く感じたのですよ。
蕩ける肉の食感、甘露のような血の味。
この世にこんな物があるのか…ここまで恍惚の至福に満たされながら食える食べ物があるのかと。
感動すら覚えました。
私は夢中で彼女を貪りました。
肉はもちろん髪の毛一本から骨に至るまで余す事なくばりばり、ばりばりと。
そして私は彼女を食べ終わり、食後の幸せすぎる余韻に包まれながら私は思いました。
彼女を食い終わった後も、もっともっとこれからも、この旨い化身の肉が食いたいとね。
それは私の中で永遠に変わることない絶対不変の望みになりました。
だから私は化身の肉を食べるために狩回る事にしたのです。
この満たしても満たしても渇いていく渇望を少しでも潤すためにね。
それが私が化身を狩る理由です…お分かりなりました? ホロさん。

「清々しいまでに悍ましい奴じゃのう…」
長いルナの話に一息ついたところでホロそう漏らした。
もしも今が人間の姿なら、気持ち悪さから冷や汗の一つでも流しながら言っていそうな口調で。
それほどホロがルナを見る顔は、醜悪な物を見るそれに顔を歪めていた。
狼の顔でもわかるくらいに。
「ふふ…それから私は地方を回り、色々な化身を狩りました。羊、鹿、鳥、カエル、蛇、狐そして……狼」
その言葉にホロの耳が、ピクっと動いたのが振り向かなくたてもわかった。
無理もない、こいつは化身を狩っては食べているのだ。
そこに自分と同じ狼が含まれれば、それはホロと同じ存在が食われている事を意味する。
狼の化身はラムトラにもいたから、それがホロの仲間であるとは断定は出来ないが、それでも気が気じゃなくなるのは当然であろう。
しかしホロの胸中はそんな穏やかな事態で済む問題じゃなかったらしい。
ルナの言葉を聞いたホロは、刺さった矢の痛みで崩していた足を起こし、奮い立つように力強く起き上がると、地を這うような声でルナに聞く。
「貴様…どこの狼を食った…?」
ホロの声はこちらに向けられていないのにも関わらず、腹の底にビリビリと響き恐怖が湧き上がらせる恐ろしい声だった。
見ればホロの全身の毛は逆立ち、尻尾に至ってはパンパンに膨れ上がっていた。
ホロは怒っていた。
確認するまでもなく心の底から。
こんなに怒ったホロを見るのは、リュビンハイゲンでロレンスが殺されそうになった時以来だろうか?
あの時は怒りで「人を殺すかもしれん」と言うほど怒っていたが、今回の怒りはそれ以上の物を感じた。
しかしそんなホロの怒りを真に受けても、ルナは涼しい顔で「うーん、どこでしたか」と呑気に腕を組ながら記憶を掘り起こしていた。
そしてポンと手を叩くと思い出すように言う。
「どこの狼を襲ったか忘れましたが、私の通り名は『月を狩る熊』それに狩られた狼たちの昔話が残ってたハズなのですが、はてどこだったか…?」
「月を…狩る熊…!」
ロレンスはその名を言葉に出して驚く。
月を狩る熊、伝承でホロの故郷を滅ぼした巨大な熊の名前。
まさかその月を狩る熊がルナだと言うのか。
ロレンスはしばし驚きが続くと、次に焦燥感が込み上げてきた。
いくつものホロと同じような化身が逃げ惑うしかなかった相手だ。
これはもう戦うどころの話ではない。
ロレンスは玉のような冷や汗を流しながら焦った。
しかしその焦りとは対照的にルナはのんびりと、まだどこの狼を狩ったのか思い出そうとしていた。
「うーん、ここまで出てきてるんですけどね…えーと、よ、よ、よ…」
「ヨイツじゃ!!!」
ホロは言うが早くルナに飛びかかろうとしていた。
「ホロ…」
やめろ! と続けようとしたがロレンスはその先を言う事は出来なかった。
突然視界が爆発したのである。
とてつもない轟音と爆音が響き渡り、泥が草ごと巻き上げられ、その高さは五メートル位あったかもしれない。
黒の剣士も巨剣で叩いた時、地面の土が巻き上がったが、今のはそんな物とは比べ物にならないくらい凄かった。
その状況に唖然としていると、後ろの方でドサリと大きな物が落ちる音が聞こえてくるので、振り向いてみるとそこにはホロが苦しそうに横たわっていた。
「ホロ!!」
ロレンスは慌てて近寄ろうとするが。
「いけませんねえ…話の途中で襲ってくるなんて…」
それを止めるように後ろからルナの声が聞こえてくる。
ロレンスは「く…」と呻きながら声の方向へと顔を向けると、巻き上がった土煙は徐々に晴れていきルナの姿がはっきりとしていく。
ロレンスの目に映ったルナの姿は、さっきと同じく片腕を動物らしき手に変えている姿だった。
唯一違うところは、変えた手が先程より巨大である所だった。
なんと言う巨大な腕なのだろう。
腕の大きさだけでホロの大きさに迫る物がある。
それほどの大きさだった。
ロレンスはゴクリと唾を飲み込みおののいた。
おののくしかなかった。
「あれ? ホロさん今のでやられちゃいましたか?」
ルナはあっけらかんにそう言うがホロから答えは返ってこない。
相変わらず苦しそうにお腹を上下に揺らしながら横たわっていた。
「ホロ…」
ロレンスはもはや掠れるようにその名を呼ぶ事しか出来なかった。
「もっと絶望させていたぶりたかったんですけどねえ…まあ仕方ありませんね。もう戦えないと言うならそろそろ貴女を食べさして貰いましょうか…」
ルナはそう言うと「ぐうう…」と呻き声をあげる。
するとルナの体がバリバリと服が裂きながら肉が膨らみ始めた。
そして徐々に大きくなり辺りに影が伸びていく。
高々とそびえる木を超え、後ろに見えた遠くの山を隠す。
それほどの巨体になる。
手を振り上げれば月に触れてしまえるのではないかと思ってしまうくらいに。
十メートル以上はあるだろうか?
旅の途中で月を狩る熊に出会った化身は世界の終わりが来たと感じたらしい。
ロレンスは今まさに同じ心境を感じていた。
あまりにどうしようもないこの目の前の現実に。
ロレンスは情けなく地面に崩れるしかなかった。
そんなロレンスを尻目に、ルナはズシンズシンと地響きを鳴らしながらホロに近づくと、ホロを首根っこつかんで持ち上げる
「ぐ…」
ルナに持ち上げられたホロは苦し気に呻く。
「何をする気だ…やめろ…やめろ!」
ロレンスはルナがホロに何をしようとしてるかわかり、恐怖を打ち払いルナの巨大な足に掴みかかる。
「ぐ…ぬ、主よ…逃げ…よ」
「はあ!? そんな事出来る訳ないだろ!」
ホロは息も絶え絶えにそうロレンスに告げるが、そんな事は当然受け入れられなかった。
「待ってろ…今助けてやるからな」
ロレンスはそう言うと銀の短剣をルナの足に突き立てる。
しかしルナの足肉は固く、数センチしか刃が埋まらなかった。
「く…くそ!」
それでもロレンスはザクザク、ザクザクと何回も何回も銀の刃を突き立てる。
「もう…やめよ…主よ…」
「うるさい黙ってろ!」
ホロの制止も効かずロレンスは一心不乱で突き立て続けた。
だがそんなロレンスの奮闘を嘲るように、刺し続けた銀の短剣は不意に刃が折れてしまい、ロレンスは弾かれるように転倒する。
「ははは…惨めですねえ。ただの人間と言うのは」
遥か頭上からルナの馬鹿にした声が聞こえる。
その声にロレンスはぐっと草を握りしめると悔しさで歯噛みする。
ぎりぎり、ぎりぎりと。
「まあ貴方のような存在がいると、食事が引き立って美味しくなると言うもの、大事な物を奪う悦びのスパイスが効いてね…くぁーはっはっは!」
そんなロレンスの気持ちを知ってか、殊更馬鹿にしたように笑い声をあげてルナは言った。
「どこ…まで…腐った奴なんじゃ…貴様は」
「残念ですが何者にも縛られず、好きなように生きるのが使徒の本分でしてねえ。貴女にどう思われようと構いませんねえ…さて」
ルナは鋭い牙を覗かせる口の回りをペロリと舐めると。
「そろそろ頂きましょうかねえ?」
「…!」
その言葉を聞いたロレンスはすぐに起き上がり、再びルナの足にしがみつく。
「くそ! やめろ…やめろ!! 離せこいつ!」
ロレンスは敵わないと知りつつも、必死にしがみつき、ルナの足を殴った。
毛ほどにも効かないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。
「うわああ!」
いつの間にか後ろで腰を抜かしていたコルも、どこからか拾ってきた石を手にルナを殴り付けていた。
しかしそんな二人の奮闘も、もはやルナの目には映らなかった。
映っているのは眼前にある最高の食事だけ。
ルナは再び舌舐めずりすると。
「実は私、色々な化身を食べましたがビシェル以上の美肉に出会った事がないのですよ。ですがホロさん貴女の肉は、きっと彼女と勝るとも劣らないくらい旨いに違いありません。何故なら貴女はビシェルのように美しいのですから」
そこまでルナは言うと、んぁ、と大口を開けて、その凶悪にギラついた牙を覗かせる口を近づけた。
「やめてくれええええええ!!!」
ロレンスはその光景に絶叫して懇願する。
しかし―――。
しかしその懇願に帰ってきた答えは、吹き出す血とこだまする悲鳴だった。

 

続く

 

・次回

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