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狼と香辛料xベルセルククロスオーバー小説、ガッツ「お前に鉄塊をぶちこんでやる」ホロ「!?」 その6

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狼と香辛料ベルセルクのクロスオーバー小説です。

狼と香辛料ほんわか御伽話風の雰囲気を、ベルセルクのグロさが多少壊してしまう感じになっていますが、それでも良いって方、興味が湧いた方は是非是非読んで下さいませ。

・前回のあらすじ

黒の剣士から逃げていたロレンスたちだったが、何故かその行軍を遅らせようと、わざと足を引っ張るルナ。

そのルナの真意は計り知れないが、とにかくホロの命を狙っての事なのかも知れない。

そう考えたロレンスは、ルナを仲間から切る事を決意する。

そしてルナにばれないように撒く事に、ホロが一案があると言う、その一案とは一体…。

 

【第6章 過去の真実】

 

「で、お前の案と言うのはなんなんだ?」
森中にいるにも関わらず、容赦なく叩きつける雨風に顔をしかめながらロレンスが訪ねると、ホロも同じ心境なのか、うっとおしそうに片目を閉じながらロレンスの問いに答える。
「うむ、この先にまた手を使わなければ登れなそうな段差が見えるのじゃが」
そう言われてロレンスは、ホロが見つめている、木々の間にある闇の先に目を凝らすが何も見えない。
見えないが狼の目を持つホロには見えているのだろう。
「段差をどうするんだ?」
そう思ったロレンスは段差があると仮定して話を進めていく。
「うむ、あやつは段差にさしかかる度、わざと足を滑らせ、わっちらの歩みを止めておる。今度はそれを逆手にとって足を滑らせた瞬間逃げるのじゃ、あやつの足では追いつけまいて」
なるほど、それなら普通に逃げるよりも遥かにふりきれやすそうだ。
それにルナは見た目よりも体力はなさそうだし、それをやられればもう追い付くことは出来まい。
「よし、それでいこう。コルもいいな?」
「はい!」
「うむ、それと後、走り出したときは、わっちの背中についてくるのじゃ、よいな?」
闇夜で、視界が効かないロレンスたちでも走れるよう、悪路を避けて先導してくれると言うのは、もう聞き直さなくてもわかることなので、二人はその言葉に無言で頷く。
理解したことを確認したホロは、少し歩くペースを上げて二人の前へと躍り出る。
ロレンスとコルも、ホロから離れないよう同じようにペース上げる。
その歩く速度は、ほんの少しルナとの間を開いてく程度のもの。
ホロはこの時点で、作戦がやりやすくするために、ルナとの距離を開いておこうと言う腹づもりなのだろう。
そんな感じにホロの思惑を感じ取ったロレンスは、なにも言わずただひたすらホロの背中を追うことにした。
コルも同じくと言った感じか、短い歩幅ながらも早歩きしてついてくる。
そしてしばらく進むとホロが言ってた通りの少し高めの段差が現れる。
最初にホロが器用に素早く登ると、続いてロレンスがホロに手を貸してもらって登り、次にロレンスがホロに習ってコルに手を貸してやる。
そうやって全員が段差を登り終えるとホロが。
「よし主たちよ、走るぞ」
と伝えてきた。
「え? もういいのか?」
「だいぶ差も開きんす、どうせあやつはがそこで足止めを食うなら、ここで走るのが最良な時節でありんす」
なるほど、わざわざルナが段差で突っかかってるのを確認してからやるより、もうここから走った方がより距離を稼げるって訳か。
ルナとの間を開くために小走りしてたのもその為か、俺は作戦をやりやすくするためだとしか想像できなかったが、賢狼様は、その一つの事柄に二つも三つもやる意味を含ませるのは当たり前らしい。
「わかった! コル! 走るぞ!!」
「は、はい!」
意味を即座に理解したロレンスは、簡潔に同意の言葉を伝えコルにもそう促す。
素早く手早く。
ホロがいろいろ策を講じて稼いだ時間を、無駄に割かない為に。
「うむ」
ホロは一言そう言うと、音もなく前へと走り出す。
二、三歩進んでも足音が全くしないので、ホロが走るその様は風を連想させた。
ロレンスとコルの二人は、それを見て慌ててホロの背中を追うが、連想した風のようなその走りが、二人に普通に走ってもおいてかれるのでは? と言う危機感を覚えさせる。
しかし、実際ホロを追い掛けてみるとそんなことはなく、ロレンスたちでも充分ついていける速度で走っていた。
本来ならもっと早く走れるのだろうが、ロレンスたちの事を考えたペースで走っているのだろう。
道もとても走りやすいし、ホロは頭がいいだけではなく気配りも欠かさない。
そこら辺の胆大心小な心持ちは、やはりヨイツで狼の長をやったりパスロエで神をやってた経験がそうさせるのか。
「手前に思いっきり飛べ!」
そんなことをボンヤリ考えながら走っているとホロの怒号に似た指示が飛んでくる。
見るとホロは足をくの字に曲げて飛んでいた。
ロレンスも慌てて言われた通り飛んでみると、その眼下に小さいながらも地面の裂け目が映る。
突然の事で驚きながらも、なんとか飛び越える事ができたが、華麗に着地を決めたホロに対し、よろけて尻餅をついてしまうのは体を動かすのは苦手な商人だからか、やれやれ、早く指先をインクで汚すだけで大儲け出来る大商人になりたいものだ。
「大丈夫か主よ?」
そうホロは言葉をかけるとロレンスに手を差しのべる。
ロレンスはその手を掴むと起き上がりながら「ああ、大丈夫だ」と笑顔で返す。
「すまぬ、地面の見えにくい位置にあったから言うのが遅れた」
そう言われて見てみると、裂け目の少し手前の窪みが盛り上がっており、確かに向こうから走ってきたら、遠目では裂け目があるようには見えないだろう。
「何、お前の目が無ければ元より見えないものだ。感謝をすればこそ非難をする事なんてないさ」
だから怒りはしないのは当たり前。
が、コルが転ばず立っていたのが、ちょっと悔しく思ったのは内緒の事。
「そんなことより先を急ごう。ここで立ち止まってたら逃げてきたのが無駄になってしまう」
「うむ、じゃがしかし、もうそんなに慌てなくてもいいかもしれん」
「え?」
「今ちょっと、走ってきた方向を見てみたが、わっちの目が届く距離には動くもの誰一人おりはせん」
ホロはおでこに片手をつけ、遠くを見るような仕草をしながら得意気に言う。
「そうなのか?」
ロレンスが、ホロと同じ方角を見ても、まるで見えないので聞いてみると。
「うむ、匂いほどではないがわっちの目はそこそこ遠くまで見れるからの、その目に映らんと言うことは、かなり離した事になるの」
と、手に腰をあて自信満々に答える。
「なるほど」
ロレンスはホロの話に得心をうると、顎に手をかけ、改めてホロの目のよさに感心する。
「ここまで離せば、黒ボウズはともかくとして、ただの商人のあやつが追い付くのは難しいじゃろうな」
確かにこんな深い森では、ホロのような案内人がいなければ、たちまち方向がわからなくなって迷ってしまいそうだ。
………迷えば野垂れ死には確実だろうな。
敵とは言え、そうなってしまうルナのことを想像すると、なんとも言えない気持ちが頭をモヤモヤさせた。
「またお人好しの顔をしてるの?」
「え? あ」
いつの間にかロレンスの顔を覗きこんできたホロが、上目遣いにそう言う。
ホロは発する匂いで感情を読み取り、今、何を考えているのか多少わかる力を持っている。
どうやら、ついルナの事を心配してしまったのが悟られてしまったようだ。
ロレンスはそんなホロを見て、いかんいかんと、思いを断ち切るように静かにかぶりふると「大丈夫だ」とホロに伝えると、ホロは「そうか、わかった」とニッと笑ってあっさりと引き下がる。
「さて、とは言え黒ボウズも追い掛けて来ていることだし、そろそろ行こうかの」
「ああ、そうだな」
「!」
黒ボウズのワードか出ると、コルは、やはりルナより怖いのか気になって後ろをチラチラ見ていた。
「安心せいコル坊、まだ黒ボウズは見えやせん、それよりこのまま進むと開けた所に出るの、もしかしたら森の出口かも知れんせん」
「ほ、本当か!?」
「ああ本当じゃ、ほれあっちの方向じゃ、あっちの方から森の深いまとわりつく匂いから、そよぐ心地のよい風の匂いにかわっておる。あれは開けたところから風が入りこんでいる証拠じゃ!」
「そんなことでわかるのか? 何度かお前のそう言うのは見てきたが、毎度ながら驚かされるよ」
「じゃろう?」
ホロはふふん、と得意気に鼻を鳴らすと、その方向を指差すと。
「さあ、主たちよ! 休憩は終わりじゃ、あんまりのんびりして差を縮められても面白くない、そろそろいくぞ!」
とホロはまたロレンスたちの先を走り出す。
「お、おいちょっと待てよ」
残されたロレンスたちもそれに習って走り出す。
と言うか今の休憩だったのか、そう感じさせないでさせてるところが本当気配り上手だな、ルナたちは視界に見えないから安心しろとか言うのも上手いし。
まったく本当、本当にホロは………。
いつも当たり前に助けてくれるホロの笑顔に、ロレンスは胸が熱くなるのを感じた。
そして唐突に、本当に唐突にホロにいつも言いたくて言えないことが、今なら言えるような気がしてきた。
「ほれ主よ! こっちじゃこっちじゃ!」
そしてそのホロの無邪気な笑顔がそれを加速させた。
「う、うおおおおお!!」
ロレンスはその言葉を言うために、先を走るホロに向かって全力で走る。
今しかない。
今言えなかったらもう二度と言えないかも知れない。
ロレンスの頭は、もうその事で頭が一杯だった。
「ど、どうした、ぬ、主よ?」
あまりの剣幕に引いたか、ホロの言葉が訥々になる。
しかしそれも無視してロレンスは走り、ついにはホロと並走する。
「主よ、無理をしてはいかんぞ? 体力がもたなく………」
「ホロ!!!」
「! な、なんじゃいきなり大声出して」
「……ホロ!」
「た、だからなんじゃと言うんだ?」
「………」
「?」
「………ホロぉぉぉぉ」
「ぬ、主よ、本当に大丈夫か?」
い、言えない、今度こそ言えると思ってたのに、現実とはやはりままならないものなのか?
ホロも呆れてるし完全に機を逃した。
や、やはり俺には無理なのか、あの言葉を言うのは。
い、いや、まだだ!
俺は言うんだ!
今日こそは、今日こそは……絶対に!
「ほら主よ見てみい! 月の光が差し込んでるおるぞ! 出口はもう少しじゃ!」
「ホロ!!!」
「わ!」
ロレンスはつい勢いでホロを抱き締めてしまう。
「な、なんじゃ主よ、冗談なら今はやめい……ん」
ホロはロレンスの腕の中でむずがるが、ロレンスは逃がすまいと抱き締める腕に力を込める。
そしてホロの瞳を真っ直ぐに見据え、真摯な声色でホロの名を言う。
「ほ、ホロ!」
「だ、だからさっきから何なのじゃ……」
ホロはその状況からか、それともこれからロレンスが言おうとしている事を察してか、頬を朱に染め、困ったように眉を八の字にしてチラチラとロレンスを見つめ返す。
その様子にロレンスは、たまらずゴクリと唾を飲み込むと、意思を固めるか、奥歯を一度噛み締めると、意を決して言葉を続ける。
「ほ、ホロ、もし無事に帰ることが出来たそのあかつきには……その」
「う、うむ」
「け、けけけけけけっこ」
びゅうおおおおおおおーーーーーー!!!
ロレンスがその言葉を口にしようした正にその時だった。
森の中にいても吹き飛ばされそうな、もの凄い風が三人の頭上を通り過ぎていった。
「な、なんだ?」
あまりの出来事にロレンスは、先ほどまでの気がすっかりそがれ、唖然としながら上を見上げる。
「……そ、そんなまさか」
そんな中、不意に聞こえたホロの声で我に返ったロレンスは、すぐに腕の中のホロに視線を戻すと、そこには酷く顔を青ざめさせたホロがいた。
「ど、どうしたんだ? 今の風は一体……」
ロレンスがホロにそう聞くが、ホロはするりとロレンスの腕から逃れると、まるでロレンスの言葉は聞こえなかったかのように、ふらふらと力なく歩いていく。
先ほどホロが言っていた、月の光が差し込む森の出口へと。
「ど、どうしたんだ?」
ロレンスは訳がわからないも、しょうがないのでホロの後をついていく。
コルも同じくとその後に続く。
ホロの後に続き、森の出口に出ると、本当に開けた場所に出たが、出た先の向こう側に森が見えるところをみると、森の中のただ開けた場所に出ただけみたいだ。
ははあ、ホロが顔を青ざめさせたのは、出口と言って出口じゃなかったからか。
得意な森とは言え、さすがのホロでも初めての土地では見誤る事もあるか。
そんな憶測を考えながら辺りを見回すと、いつの間にか雨も止んでおり、雲が晴れた月の光が辺りを照らしていた。
今まで森の闇の中にいたロレンスにとっては、その柔い光ですら眩しく感じる。
ロレンスがそんなことをボンヤリ考えてる最中も、ホロはスタスタと先に行ってしまっていた。
先ほどまでとはまるで態度が違うホロを、訝しげに感じつつも、ホロは先にどんどん行ってしまうので、ロレンスは仕方なくコルと顔を見合わせながら後に続く。
その歩く開けた土地は森のように木々はないにしろ、やはりは人里離れた場所か、見渡せばチラホラと低木があり、また膝の上くらいまで伸びた草原の草々が、歩く度にシャクシャクと踏み潰される音を立てていた。
そんな感じに草地を歩いていると、先ほどの雨でついた葉のしずくがズボンに染み込み嫌な湿り気を感じさせる。
またその草原地帯は結構広く、だいぶ歩いたが、向こう側の森はまだ先にあり、改めてその森の入り口を見ると木々とその隙間に見える闇が相まって、まるで人喰いの化物が大口を開けて待ち構えているような、そんな不気味さを感じさせた。
ロレンスは、それに一縷の不安を覚え、払拭するかのように森から視線を外す。
視線を逃がした先にはまんまるな月が煌々と照っていた。
もう眩しさは感じない。
その時だった。
ロレンスは目の前にぶつかりそうな何かに気づき、あわやぶつかる寸前で慌てて歩を止める。
見れば先ほど前をふらふら歩いてたホロが、いつの間にか歩み止め棒立ちと言った感じにそこに立っていた。
草原地帯も中頃くらい、なぜ歩くのをやめたのか?
「ホロ、どうしたんだ?」
その問いかけにホロの声は返ってこない。
「ホロ?」
「主よ、………すまぬ、わっちがこうも読み違いをするとはの」
再度呼びかけると、そこでホロはようやく口を開く。
ロレンスの方は見ず、先ほどロレンスが不気味に思ってた森の入り口をじっと見据えながら。
何か見えるのか? そう思ったロレンスもホロと同じく森の入り口の方角を見てみると、最初はよく見えなかったが、次第に何かこちらに向かってくる歩いてくる者が見えた。
黒の剣士か!?
最初はそう思ったが近づくにつれ、それが違う事にわかった。
中肉中背のそこそこしっかりした体つき、少々ふくよかな熊にも似た丸顔。
「酷いなぁロレンスさん、こんな森の中でおいてけぼりにするなんて」
「る、ルナ……さん」
ば、馬鹿なあり得ない、咄嗟に浮かんだその言葉がロレンスの脳裏を支配した。
ルナから逃げたのに、なぜ逃げた先にルナが現れるのか。
単純にどこかで追い抜かして待ち伏せしたしか、人間のロレンスには想像がつかないが、いくら思考を巡らしても不可能としか思えない。
例えルナがホロのように何か動物の化身でもだ。
なぜならホロのように走るにしても、木々がしげる森の中では思うように走れないし、なによりホロの目を逃れて先回りするなんて、瞬間的に移動するくらい早さでなければ無理なはずだ。
以前ロレンスはホロの背中に乗って走った事があり、その早さには確かに驚かされたが、それでも人間の目で追えるくらいの早さで、到底瞬間的に移動するほどのものではなかったはずだ。
もしかしたらルナが何かの化身でもしかしたらホロより早い動物なのかも知れないが、それでも早さの違いなど大きくは変わらないだろう。
「ほっほっほ、ロレンスさん商人らしく思考を巡らせてようですね。考えている時の顔が奴にそっくりだ。さすがは弟子と言った所ですかな?」
「で、弟子? 何を言ってるんだ?」
「いやあ驚きましたぞ? 久々に貴方を町で見かけたら、また化身と一緒にいるなんて、よほど化身と縁が深いと見えますな」
化身? ホロの事だろうか? それに、また、だと?
あまりに突拍子過ぎる話に、ロレンスの理解が追いついていないと、それを察したかのか、ルナはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ口を開く。
「これはこれは失礼しました。あの時の事は貴方は知らないのですからね。わからないのも無理からぬ事」
「だ、だから何の事だ!」
「いけませんねぇ、商人がそうそう声を荒げては、師匠にそう教わりませんでした? 貴方の師匠フォルクスに」
「な…に? な、なんでお前が師匠の名前を!?」
「な、なんじゃと? 主の師匠? 商売のかや?」
ホロもそれにさすがに驚いたのか、今まで鋭くルナを見据えていた視線を緩ませロレンスに向ける。
「あ、ああ、数年前に商人のいろはを教えてくれた人だ。ある日忽然と消えてしまって、それっきりだったのだが……なぜあいつが師匠の事を……」
「わからないのも無理もない、なぜなら貴方の知らないところで、私はフォルクスと会ってたのですから、そう貴方の元からフォルクスが消えた日にね」
「何!? お前が師匠に何かしたのか!?」
あまりに嫌らしくニヤニヤと笑いながら言うルナ
その態度と長年気になっていた師匠の事が相まって、ついロレンスは声を荒げてしまう。
「まあまあ落ち着いて、貴方は商人、ヤクザや傭兵ではないのだから声を荒げて話を引き出そうとしてはいけませんよ? まあ貴方程度が凄んでも私にとってはどうと言うこともありませんが、ククク」
「く!」
ルナはなだめるように両手を振りながらも、ロレンスに挑発的な言葉を続ける。
そのルナの態度に、ロレンスが力的には何も出来ないと頭で理解していたが、師匠の事で怒りが先走り、今にも飛びかかって襟首を締め上げたい衝動が襲い、つい前のめりになってルナを睨みつけてしまう。
「で、その日何があったのかや?」
ホロは今にも飛びかかりそうなロレンスを止めるように手を出しルナにそう問う。
「ほ、ホロ」
目の前に出されたホロの細腕がロレンスの冷静を取り戻させる。
「……主よ、落ち着くのじゃ奴の流れに乗せられては奴の思う壺じゃ」
ホロは顔を向けずに小声でロレンスにそう言う。
小声で話すのは、まあルナに感づかれないためだろう。
「……すまん」
ロレンスもホロに習って小声で返す。
「ほっほー、と言われて私が素直に話すと思ってるのですか?」
二人がそんなやり取りをやっていると、ルナは顎をさすりながら、相変わらず小馬鹿にした態度でホロの問いに返答する。
「そうか? 主からは喋りたそうな匂いがプンプンするがの?」
そんなルナの態度にもまったく動じずホロは返す。
「そう見透かされるとひねくれたくもなりますが……ふむ、まあいいでしょうどうせ話すつもりでしたしね」
そう言うとルナは、話に本腰を入れるためか、今まで逸らしていた体をこちらに向ける。
「とりあえず私の事から話しましょうか? まあとりあえず私が商人と言うのは嘘で、本当はホロさんのような化身を趣味で狩り廻るのが本来の目的なんですよ」
そう言うとルナは、ホロの体を爪先から頭まで品定めするように見ると、下卑た笑みを浮かべ舌舐めずりしながら言葉を続ける。
「ひひ、特に女の化身は大好物でね。おっと失礼、話がそれましたな、まあ私は化身狩りをしていまして、ロレンスさんあなたの師匠は化身だったのですよ」
「……え?」
何を、言ってるんだ? 師匠が化身、ホロと同じ存在だって? は、はは、まさか。
にわかには信じがたい事を言われたロレンスは、当然ルナの言葉など信じられず頭の中は否定しか出てこない。
そんなロレンスの心中を悟ったか、ルナはニヤリと笑うと。
「信じられませんかー? まあ無理もないですが、でもこう言ったら真実味が増しますかな? 突然師匠がいなくなった日を覚えてますか? なぜ戻ってこなくなったのか? それは私が殺したからですよ」
「……な、………!」
突然のその言葉。
胸を射ぬかれたような感覚がロレンスから言葉を奪い絶句させる。
ルナはそのロレンスの反応に、猿のように手をパンパンと叩きなながらほっほー、と興奮気味に笑う。
その目はロレンスを人間として見てる目ではなかった。
奴隷商人のような、いや、それ以前の、例えばサーカスで芸をする動物を見るような、そんな人を人として見ないそんな目。
口べらしも当たり前にあった貧しい寒村での子供時代に、大人から向けられてきた強者が弱者に向けるような、そんなとても嫌に感じる目でルナはロレンスを見ていた。
そんな嫌悪感からロレンスは、見えなくてもわかるくらい、ぐにゃりと歪ませた不快に感じているその顔をルナに向ける。
それでもルナは、さらにニマニマと嫌らしい笑みを浮かべながら話を続ける。
「いやあロレンスさん実に良い! 思った通りの反応を返してくれるので、これは仕込んだ甲斐があったと言うもの」
「……仕込んだ甲斐だって?」
きっ! とロレンスは精一杯目を鋭くして言うが、やはりルナはまったく動じず、話はこれからだと言わんばかりに、手を前に出してロレンスが喋ろうとするのを抑制する。
「まあその話はとりあえず後でお話します。それで貴方の師匠フォルクスですが、彼は狐の化身だったのですが、化身の中でも取り分け狩りづらい方でしてね。と言うのも、そうホロさんのように賢狼と呼ばれているように奴にも二つ名がありましてね。フォルクスが呼ばれていた二つ名は霧孤(キリコ)、ホロさんが知に長ける通り名ならフォルクスは逃げる事に長けていてね。追いついても霧のように消えて逃げてしまう、だから霧孤。彼はそう言う化身だったのですよ。私も何度か取り逃がして難儀してたのですが、ぷ、くく」
ルナはそこまで言うと、吹き出すのを押さえるかのように口元に手を当て笑う。
ロレンスに相変わらずの嫌らしい視線を送りながら。
「……何ですか?」
ルナの挑発めいた態度に耐えかねたロレンスは、言葉に少し怒りの火を添えて返す。
「いや失敬失敬、まあそれでですな、数年前にまたフォルクスを見つけた訳です。そう貴方が弟子入りしているときにです。私にとってそれはとても幸運な事でした」
ルナがこれから何を言うのか?
それが次第にわかってきて、背中にぞくりとさせる嫌な汗が流れるのを感じる。
頭の中も、まさか、その言葉が埋め尽くすように連続して反響して浮かび上がっていた。
もうこれ以上先(真実)は知りたくない。
そんな不安や恐怖から来る重圧で、ロレンスの顔にはもはや余裕と言う文字は無かった。
しかしルナはそんなロレンスなど気にもかけずに。
「逃げればロレンスさん、貴方を殺すと言ったらフォルクスは逃げませんでした」
「……何て事だ」
今、ロレンスが聞きたくなかった言葉が真実を告げる。
その言葉を聞いた瞬間、ロレンスは胸の辺りにドクンとした衝撃を受けフラフラと前のめりに倒れそうになる。
「し、しっかりせい主よ!」
「大丈夫ですか!? ロレンスさん」
しかしその寸でホロとコルに支えられなんとか倒れるのは免れる。
そして長い間旅を共にしてきた二人の顔が、重圧で押しつぶされそうになっていたロレンスの心を和らいでくれた。
そんな心強い二人の存在に、ロレンスは改めて感謝をし笑顔で「あ、ああ、すまない」と二人に返し、そしてそれを見た二人も、ほっ、と安堵のため息を漏らす。
「くひゅ! くひふふひほほ!」
ロレンスたちがそんなやり取りに心地のよい雰囲気を感じていると、それを嘲るようにルナが下卑た笑い声をあげる。
「……何がおかしいかや?」
ホロは地を這うような声で言う。
しかしルナはそんなホロの凄みを見ても相変わらず平然とした態度を崩さなない。
まるでホロなど怖くないと言った感じに。
「失礼失礼、まあそんな感じにロレンスの協力もあってフォルクスを殺せた訳なんですが、その数年後にまたロレンスさんが化身を連れて私の前に、あ、現れるのですから! あはははははは!!! この出来すぎた運命を可笑しく感じて仕方ないでしょう!! ははははははは!!! ですからロレンスさん私はこの真実を貴方に教えたくて教えくてしょうがなくて、話しやすくなるように飯まで奢って旅に同行したんですよ! だっていきなり殺しに来てこんな話をしても分かってはくれなかったでしょう? だから仕込みは大成功って訳です。ははははははは!!!」
思うまま欲望のまま、あまりに自分勝手に話すルナは酷く醜いもので、それはその醜悪さにあの控え目なコルが顔をしかませるほど酷いものだった。
「もういい黙れ、でどっちからやるんかや?」
「ほお? 気づいてましたか、さすがは狼の感覚と言ったところでしょうか」
どっちから? 気づいてた? ロレンスは二人の会話の意味がわからず、その意味を知るために辺りを見回すとその答えはすぐに出た。
「……く、黒の剣士」
後ろを見るとロレンスが来た森の入り口から、あの恐ろしい巨剣を携えた黒の甲冑姿の男が立っていた。
前には正体不明のルナ、後ろにはホロの命を狙う黒の剣士。
逃げ場がなくなったこの絶対絶命の状況。
そんな緊迫めいた状況でも、月は素知らぬ顔で、たおやかな光を煌々と照らし続けていた。

 

続く。

 

・次回

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