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狼と香辛料xベルセルククロスオーバー小説、ガッツ「お前に鉄塊をぶちこんでやる」ホロ「!?」 その3

ガッツ「お前に鉄塊をぶちこんでやる」ホロ「!?」

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狼と香辛料ベルセルクのクロスオーバー小説です。

狼と香辛料ほんわか御伽話風の雰囲気を、ベルセルクのグロさが多少壊してしまう感じになっていますが、それでも良いって方、興味が湧いた方は是非是非読んで下さいませ。

・前回のあらすじ

 突如現れた化け物狩りをしていると言う黒の剣士。

ロレンスは、剣士が携える巨剣を見て ホロの身を案じ、何とか争いにならないように言葉で止めようとするが、黒の剣士はまるで聞く耳を持たない。

それに諦めたホロは、ロレンスを下がらせ、元の巨大な狼の姿に戻って戦おうとするが、その時現れた妖精が、強烈な光を放ち、黒の剣士の視力を奪う。

ロレンスたちはそれを見て好機と思い、全ての荷物を捨てうっそうと茂る森の中へと逃げたのだが…。

tentama315.hatenablog.com

 

 

【三章 簡単な答え】

と言う感じに黒の剣士に襲われた。
そんな感じに過去の回想話をして、話は初めの黒の剣士の事を話し合っていた、木の洞まで戻る。
「あれがルナさんが言っておられた?」
そうコルが神妙な面持ちで聞くと、ルナはまだ息が整ってないのか。
「ぜぇぜぇ、え、ええ、ひぃひぃ特徴もあってますし、ぶふー、お、恐らく黒の剣士かと」
と苦しそうに息継ぎを混ぜながら話す。
周りはだいぶ呼吸は落ち着いてきてるのに。
見かけはロレンスよりしっかりした体をしているのに、なんとも体力のない男である。
その様を見ていると、ルナが只者ではないと言う憶測は、ホロの杞憂なように感じてしまう。
そう思ってしまうくらい、ルナは疲れ果てていた。
これが演技なら大した物だ。
まあ演技は商人の専売特許でもあるから、だからと言って断定はできないが。
そんな事を冷静に分析していると、黒の剣士に襲われた時の、気持ちの昂りも、熱せられた鉄が、自然に冷えていくように治まっていく。
それと同時に今度は腹の底から、悪寒にも似た、冷えた物がせりあがって来るのを感じる。
それは不安。
ああああ!!! 荷馬車壊されて、商品も壊されて、大損害だ!!
これから先どうやって商売をすればいいのか、いやそれよりも生計立てるのだって難しいぞ。
前みたいに一人だったら徒歩での行商でもいいが、今は3人分稼がなければいけない。
徒歩での行商では、三人どころか二人だけでも確実に赤字になってしまう。
ロレンスは現状を鑑みて、捲し立てるように思考を巡らすが、いくら考えても悪いことしか思い浮かばない。
「たわけが」
こつん。
ロレンスは悩んでいると、また唐突にホロに殴られる。
今度は軽くだが。
「今は先の事を考えるより、黒坊主をどうするかを考えることが先決でありんす」
ホロが与えた鈍い痛みが、ロレンスの頭を捕らえていた、現実的な問題から来る不安を、まるで雨の後に澄み渡って行く晴天のように打ち払ってくれた。
そうなのだ。
まず黒の剣士から生き延びなければ、今後も何もない、終わりなんだ。
「……すまん、助かったよ」
「うむ、わかればいいのだ、さて羽根チビが時間を稼いでくれたとは言え、あまり悠長には構えてはおれんの」
「そうなのか?」
「くふ、奴め結構やりおるわ、とうに目は治って、わっちの鼻にも耳にも引っ掛からん場所におるらしい」
ホロは腕を組み、不敵に嬉しそうに笑って言う。
黒の剣士が手強いのがそんなに嬉しいのだろうか? 損得勘定でしか物事が考えられない商人には受け入れがたいが感覚だが、まあ、大昔に傭兵とやりあったり、伝説の英雄の尻を囓ったり、あげくの果てにパスロエ村の豊穣の神に収まった人知を超えた存在であるホロ。
本人は神や精霊などと、人間を越えた特別な存在に思われるのを嫌う節があるが、やはり人間に負けるはずがないと言う絶対的な自信を持っており、事実そうであった伝説をいくつも年代作家に記させてきたのだろう。
まあたまに酒に飲まれた失敗談もあったかも知れないが。
とにかくそんな強さを持ったホロ。
争い事を好んでやるとは思わないが、やはりは狼。
売られた喧嘩を買うぐらいの気概はあるし、誇りを傷つけられば牙を剥く。
そんなホロだから俺との口争ばかりではなく闘争もしてきたのだろう。
しかし闘争は口争と違って肉体的な強さがものを言う。
巨大な狼の化身であるホロに、ひ弱な人間では、いくら歴戦の戦士であろうと相手になるまい。
きっとホロは、そちらの方面では相手がいなくて、さぞ退屈であったのだろう。
だから今楽しそうなのは、本当に楽しく感じているからなのだろう。
そうロレンスが考えていると、その推察を裏付けるようにホロが言う、自信たっぷり余裕たっぷりに。
「ふんまあいい、さっきは余計な茶々がはいりんしたが、黒坊主め、次あった時は叩きのめしてくれるわ。ああ楽しみだのう」
ホロは目を戦い楽しむそれに変え、興奮を孕ませた口調で言う。
やはり戦うのは血が騒ぐのか、普段の口喧嘩より、研ぎ澄まされた刃物ような鋭い空気なようなものを感じる。
ホロは、心の底から黒の剣士と相対することを望んでいる。
そう見えた。
本当に一瞬そう見えたのだが、長くホロと付き合っていたロレンスだったから見逃さなかった、尻尾が微かにわななくのを。
それは見ようによっては武者震いなのかも知れない。
しかしそれが違うことは、なんとなくだがロレンスにはわかった。
なぜならそれは耐えるように出された震え。
本当に小さな小さな震えだったからだ。
まるでロレンスたちに感ずかれないようにバレないようにしていたが、耐えきれなくなって仕方なく出てしまったような。
そんな恐怖を形ちする小さな震え。
ホロは強気な口調で話しているが、恐れているのかも知れない黒の剣士を。
無理もない、ただの一発で荷馬車を粉々するほどの相手だ。
ホロにも十分わかっているのだろう。
例え狼の化身に戻っても、楽な相手でないどころか、こちらも無傷ではすまないことを。
それでもなお、気宇壮大な自信をロレンスたちに示すのは安心させるため。
万が一また黒の剣士に遭遇してもわっちがおるから安心せい、その安全と保証を見せつける事によって、ロレンスはもちろん、コルの不安を取り除こうと思っての事だとは想像に難くない。
しかし無理をしているからか、組んでいた手はいつのまにか下げられ不安そうにきゅ、と握りしめられ、ピンと立っていた耳は今にもへたれそうにふるふるとしていた。
長く側でホロを見てきたからわかること。
恐らくは黒の剣士と戦い、自分があの巨剣の手にかかるのを連想して戦々恐々としているのかも知れない。
ホロは自信家だが、案外打たれ弱いところもあるのだ。
最初のパスロエ村でヤレイに決別された時しかり、クメルスンでディアナから故郷はすでに滅んでいる事を知らされた時しかり、そのどれに置いても、ホロは落ち込み涙した。
豊穣の神で狼の化身で、どうしても神色自若に見えてしまうがそうではない。
そんなホロでも、落ち込む時は落ち込むし、泣きたい時は泣くし、照れる時は照れる。
普通の、どこにでもいる少女と変わらない、変わらないのだ。
だからこんな時、気負うな、お前なら大丈夫と声をかけてやるのが、相棒であり、……そ、それ以上の仲であると自負、いや思いたい、自分の勤めだと思う。
しかしそれを、誇り高いホロにストレートに言ってはいけない。
そう言われればホロは余計強がってしまうのを知っているから。
コルや他の者がいるときは尚更に。
だからそこはホロを立ててうまく言うのだ。
それぐらい察して考えての会話が、当たり前に出来てこそ商人だ。
ロレンスはその気持ちを胸にしっかり刻み、ホロの肩に手をぽん、と置きホロに語りかける。
「ああ、いざと言う時は頼りにさせてもらう」
ホロは肩に手を置かれた瞬間、ぴく、と肩を震わせる。
まるで予想外の事が起きたように。
ホロの狼の感覚なら、俺が手を置く前にわかるから驚く事など滅多にないはずなのだが。
それだけ気持ちに余裕がないのか?
その証拠にホロの返しは。
「あ、ああ、……任して、おくでありんす」
先ほどまでど違って、不安の色を含んだ訥々したもの。
ホロがここまでになると言うことは、やはり黒の剣士は相当ヤバい相手になると言うこと。
だとすればなおのことホロに無理はさせられない。
荒事はホロに任せるとは言え、それはホロが怪我をしない事が絶対の条件は当たり前。
パッツィオやリュビンハイゲンで、ホロが狼化して戦った、武装した商人や傭兵くずれみたいな、人間レベルの相手とは訳が確実に違う。
黒の剣士はホロに、怪我どころか致命傷を与える術を持っているのだ。
だから戦いになる事だけは避けなければいけない。
それは絶対に。
しかしここは上手く会話を誘導しなければ、ホロは皆にああ言ってしまった手前、俺が下手なことを言えば、自分の強さと誇りを誇示する為に、逆にむきになって迎え撃とうとも言い出しかねない。
まあホロとて賢狼、自信の強さに誇りを持っていても、血気盛んな戦闘狂とは違って、引くところでは引く位に心は落ち着いているとは思う。
だから俺があれやこれや心配しなくても、そこら辺はわかっているとは思うが、念にはねんだ。
黒の剣士とは戦わない方向に話を進める。
そう思ったロレンスは数瞬の間に頭を全力で回転させ、いくつもの言葉と会話を流れを考える。
ここまでの時間、ホロが訥々に返した最後の言葉から数秒の間。
ロレンスは、思い付いた言葉の中から、慎重に選んで切り出す。
「……とは言え、戦わないに越したことはないな。なにせお前が怪我でもしたら大変だからな」
「……主よ、わっちがあの黒坊主に遅れをとるとでも、よもや思ってはおるまいな?」
くわ、と音が聞こえてきそうな位、ホロは牙を剥いてロレンスをねめつける。
一見挑発してるような切り出し方だがこれでいい。
何ごともさじ加減である。
そしてここから本番である。
ロレンスはこほん、と咳払いし、喉を整え話を続ける。
「お前の強さはわかっているさ。黒の剣士だってお前の足下にも及ばないだろう。だがなお前にはかすり傷一つでも負ったらこの先困るんだ。だから戦いは自重して欲しいな」
「旅をしてればかすり傷の一つや二つくらいするであろう、この先なにが困ると言うんかや?」
「いやいや困るさ ……なぜなら」
「……なぜなら?」
「馬もやられてしまった時、お前には代わりに荷馬車を引いてもらおうって考えてたからな」
挑発して昂った心を冗談で一気に落とす。
これをやられると相手がどんなに怒り荒ぶっていても放心し、数瞬後には落ち着きを取り戻すのだ。
これでホロは焦りから解放され、冷静に物事を考えられ俺の意図もわかるし、面子も保つ事が出来たはず。
ほら予想通りにホロもまずは放心して、あれ? いてて、なんか足の脛が凄い痛いのだが。
ロレンスはいたみの発生源を見てみると、ホロのつま先が足の脛に見事にめり込んでいた。
「ぐがっ!」
ロレンスは遅れて痛みの呻きを上げる。
「お、お前な……!」
「主はわっちに馬車馬になれと言うのか! があっ!」
「だ、たから、それは、ぐああぁぁぁーっ!!!」
ホロはロレンスの弁明を聞かず、今度は腕を思いっきり噛む。
さすが狼、犬や猫に噛まれるのとは訳が違う、恐ろしい痛みが噛まれた箇所から沸き上がる。
「あたたた! ほ、本当に痛い! お、俺が悪かった! すまんこの通りだ!」
その言葉を聞いて、ホロはふん、と鼻で笑うとようやく離す。
「……まったく主は、メスに対する心配りが相変わらず欠けているでありんす! 他に言い様はいくらでもあろう!」
そう言うととホロはぷい、とそっぽを向いてしまう。
「す、すまん」
ロレンスは噛まれた腕を擦りながら情けなく謝る。
「……ふん」
ホロはそれにそっけなく鼻で返すが、そこまでは怒っては無さそうだ。
その証拠に、噛まれた腕は物凄く痛かったが、血が出るほどは強くは噛んでないし、なにより尻尾が嬉しそうに揺れていた。
「……で、で、どうするんかや?」
ホロは後ろを向いたまま、顔だけチラチラとロレンスを見ながら訪ねてくる。
その顔はほんのり朱に染まっているように見えた。
「どうするってなにが?」
咄嗟に言われ、ロレンスはついそのように返してしまうと、ホロは呆れ顔をして。
「何ってどうやって黒坊主から逃げるかだが、戦わないようにするのだろう?」
「え? あ、ああ、そうだな」
「主よなにを呆けておる? 先ほどの言葉、わっちを大切に思って言った事なら最後まで責任をとりんす」
なんだ、やっぱりわかっててくれたのか。
ロレンスは自分の意図が、ちゃんとホロに通じてた事に一概の嬉しさを感じ、顔を綻ばせる。
「なにがおかしいんかや?」
わかっているくせに、ロレンスは頭の中でそう呟き「なんでもないさ」と笑顔で返す。
「話を戻そう。とりあえずお前の感覚でも、黒の剣士の位置を掴むことはできないんだな?」
ロレンスがそう聞くとホロは「うむ」と言い、音を拾いやすくする為か、両の手を耳の後ろにかざし、目を閉じ集中するが、すぐに「駄目だ、やはり聴こえん」とがぶりふる。
「そうか、だとすると迂闊に動くのは危険か……黒の剣士がどこにいるかだけでもわかれば逃げようもあるんだが」
「奴め本当にやりおるわ、わっちの耳が良いこと計算して、恐らくは風で木々が擦れあう音に紛れて移動しているに違いない」
「そんなになのか!? いつかの銀の純度を当てた時みたいに、違いがわかったりしないのか?」
そうロレンスが言うとホロは困った顔をして。
「無理言うな主よ、わっちの耳とて万能ではありんせん。それにあの時は、本当に間近で聞いたからわかっただけの事。こう離れて、しかも向こうも警戒してるのではさしものわっちもお手上げよ。……風も強くなってきたしの」
そうホロに言われて辺りを見回してみると、なるほど確かに先程より風が強くなっており、そのお陰で木々が擦れあう音が激しくなっていた。
これでは確かに黒の剣士の音、例えば鎧の金属が擦れあう音など簡単に紛れてしまうかも知れない。
それにこの風の強さ、雨が降るかも知れない。
そうなったら音はもちろん臭いも消してしまうかも知れないので、状況はさらにやっかいなものになるだろう。
時間はあまりかけられないと言うことか。
まてよ、さっきから音ばかり気にしてたが臭いはどうなんだ?
「ホロ、そう言えば臭いはどうだ?」
ロレンスは顎に手を当てながら聞いてみる。
「残念だがせんな、たぶん風下を移動してるのだろう」
「臭いも駄目か……」
いいところに気がついたと思ったが、やはりホロがそこに気づいていない訳がないか、そう思ったロレンスは、即座に頭を切り替えて、何かないかと頭をガシガシ掻きながら考えていると、さっきまで二人の会話を邪魔しないためか、押し黙っていたコルが唐突に「……あの、もしかしたらなんですけど」と、悩んでいるロレンスに声をかける。
そのコルの言葉にロレンスは、状況が状況なだけに、思考を妨げられた時に感じる苛つきを覚えてしまい、それでも商人として大人として、必死に押さえようと思ったが、出た言葉は酷く不機嫌を含んだ「……なんだ?」だった。
それにコルは当然の如く萎縮してしまい「え、あ、あの、なんでもありません」としか言えなくなってしまう。
「こりゃ主よ、コル坊だって役にたとうと必死に考えてくれたかもしれんせん。話だけでも聞いてもよかろう? もしかしたらわっちらが考えつかない事を言うかもしれんぞ?」
「あ、ああすまん」
ロレンスは後から、自分でも失敗した態度をとってしまったことは分かりきっていたが、改めてホロにたしなめられると、感情が押さえきれなかったのは、商人どころか人としても足り得なかった未熟さと痛感し、ある種のばつの悪さを感じてしまう。
しかし、ここで気まずくなってしまったからと言って会話を止めてはただの人、ロレンスは商人なのだ。
ロレンスは気持ちを切り換え、コルに声をかける。
「すまないコル、ちょっと気持ちが焦ってお前に当たってしまったかも知れない、重ねてすまん」
相手に悪いことしてしまったと感じたら、どんな相手でも、真摯に素直に頭を下げられてこそ商人だ。
ロレンスは深々と頭を下げてコルに謝る。
「そ、そんな、やややめてくださいよロレンスさん!」
そんなロレンスの態度に、コルは頭と両手を困ったようにがぶりふる。
「これで仲直りだの、さ、コル坊は何を思い付いたんかや?」
ホロはコルの後ろから覆い被さるように抱きつき、そう聞く。
それにコルは顔を赤くして、嬉しいような困るような、そんな曖昧な顔し、そしてもう一度確認の為かロレンスの顔を見る。
ロレンスは即座に無言で頷き、それを見たコルは今度こそ覚悟を決めて口を開く。
「えっと、く黒の剣士が、あ、あのホロさんが言うとおり、臭いがわからなくなる風下にいるなら、風上に逃げれば、少なくとも鉢合わせになることはないし、万が一風上に回り込まれても、今度は、臭いが掴めるようになるんじゃないかな、と思うのですが……」
今度はコルの言葉にロレンスが放心。
そうだった。
知っていても言われてから初めて気づく簡単なこと。
ロレンスは、黒の剣士の居場所に気をとられ過ぎてて、他がおざなりになりすぎていた。
本当に、どうしてこんな簡単なことに気がつかなかったのか?
チラリとホロを見てみる。
ホロは目が合うと、気まずそうに剃らす。
どうやらホロも同じらしい。
三人よらば文殊の知恵と昔からよく言うが、その内わけはきっと、俺とホロとコルのような三人だったかも知れない。
なぜなら三人が三人、俺とホロのように、知りすぎているがゆえに難しく考えてしまえば、問題は難しくなるばかり。
でもコルのように、知らないがゆえに簡単に考えてしまう者が、一人でも加われば、難しい問題も、今回のように簡単になるものなのだ。
「でかしたぞコル! よし、その方向で逃げるようにしよう」
「は、はいありがとうございます!」
ロレンスは、コルの発見を素直に喜び褒めたが、なんか逆に感謝されてしまった。
まあ性分なんだろう。
しかし、コルは初めて会った時から思ってた事だが、なかなかの才の持ち主なような気もする。
まあ、教会の司教になるために、北の寒村から飛び出して来たほどだ、それなりに学も積んでいるのだろう。
しかし、いくら本や勉強で知識を身に付けても、それを使う知恵がなければ意味がない。
それは、ロレンスが商人をしてきて、自然に身に付いた感覚だが、とにかくコルにはそれがあるように感じて、その事が、まるで自分の事のように嬉しく感じる。
だから、ロレンスの本心としては、もう少し誉めちぎりたいところではあったが、ロレンスの師匠は簡単には褒めない、と言うか、一度も褒められた事はなかったかも知れない。
そんな人だったから、ロレンスも過剰に褒めてしまうのに抵抗を感じる。
そんなのは出来て当たり前、ようやく出来るようになったのか、そんな空気。
ロレンスと師匠の間柄は、ずっとそんな感じだったかも知れない。
冷たいようだが、実際の師匠弟子の関係などそんなものだ。
しかしロレンスは、当時こそ若さからか、そんな師匠を良くは思ってなかったが、今となってはそれが良かったと信じている。
なぜならそのお陰で、いっぱしに荷馬車を引き、行商が出来る商人までに成長したのだから。
だからコルの成長に繋げるためにも、ロレンスも簡単には褒めない。
師匠と同じように。
まあロレンスがそう思ったところで、あの師匠だったら、鼻で笑って一笑に付すだけだろうし、それ以前に、お礼を言うにも、もう生きてるのか死んでるのかもわからない。
ロレンスの師匠は旅の途中、夜営を張った街道の外れで、朝、目を覚ますと、荷物ごと跡形もなく消えていた。
それがロレンスと師匠の別れ。
それからいくつもの町を巡ったが、師匠とあうことは二度となかった。
今でも不思議に思う別れかたである。
なぜなら、修業期間が終わり、師弟の関係が無くなっても、商人なら人脈は財産と考えるのだから、こんな突然消えて、縁を切るような別れかたなどあり得ない。
最初は、それが当たり前だと思っていて、酒の席で、商人仲間に真顔でその事を話したら、大笑いされたのはいい思い出。
今でもそいつらに会えば、失敗談として話の種にされる。
しかし、それでも師匠をよく知る人物にその話をすれば、あの人だったらなぁ、と納得されることもしばしばあったので、やはり師匠が特別変わっていたと言うだけの話で、それでロレンスがからかわれるのは、心外に感じてしまう。
まったくどこで何をしてるのやら。
とても厳しく、寡黙で、変わった人だったが、願わくば、やはり無事であることを望む。
まあまずは人の安否より自分の安否。
黒の剣士から逃げきるために、この森から抜け出さなくては。
改めて、覚悟と決意を固めたロレンスは口を開く。
「よし、風上に向かって逃げよう! ホロ誘導を頼む!」
「まかしんす」
風の流れくらい、指先を舐めて調べる位はロレンスも知っているが、調べるのに手間取って、黒の剣士に追い付かれてしまっては、元も子もない。
だから、そんな事をしなくても、風の流れがわかるホロに、誘導を任せるのが正しい判断だ。
そんな感じに準備も整い、ロレンスが「さあ! 行こう!」と声をかけ、黒の剣士から逃げるため、いよいよ木の洞から出て、森奥へと、足を踏み出そうとしたとき。
唐突にそれを制止する者があらわれる。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい! ロレンスさん」
声の主はホロより野太く、コルより歳をとっている者。
つまりルナであった。

続く。

・次回

制作中

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