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狼と香辛料xベルセルク、クロスオーバー小説、ガッツ「お前に鉄塊をぶちこんでやる」ホロ「!?」

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狼と香辛料ベルセルクのクロスオーバー小説です。

狼と香辛料ほんわか御伽話風の雰囲気を、ベルセルクのグロさが多少壊してしまう感じになっていますが、それでも良いって方、興味が湧いた方は是非是非読んで下さいませ。

・あらすじ

ロレンスは行商の旅路の途中で寄った町で、ルナと言う、同じローエン商会に組すると言う商人と出会う。

そのルナと言う商人は、出会ったばかりのロレンスたちに、貴族が食べそうな高級料理をご馳走すると言う羽振りのよさを見せる。

それに怪しんだロレンスは、何が目的なのかルナに尋ねると、次の街まで道中を共にしたいと言う、何でもない事だった。

しかし、その何でもない事で、こんなご馳走する訳が無いと思ったロレンスは、何か裏があると思いルナの頼みを断ろうとするが、すでに料理をホロがたらふく食べてしまった事で断りにくくなってしまい、仕方なく、その怪しい商人ルナと道中を共にする事になるのだが…。

 

序章

月の光も届きにくい、深い森の闇の中。
大きな大樹のうろの中で、胸を張り裂かんばかりに荒々しく呼吸を繰り返していた者たちがいた。
少し雨が降った後だからか、空気は湿り気を帯び肌にぬたつく。
そんな湿った空気の中でも、喉が渇き張りつくほどに彼らの呼吸は激しくしていた。
その様相はよっぽどの事があったことを容易に想像できる。
それでも時間が経つと次第に彼らの息も整い、落ち着きを取り戻していく。
すると、その中でいち早く落ち着きを取り戻した少女が最後に、ふう、と一呼吸入れると、驚きと怒りを含ませて言う。
「な、なんじゃあれは!?」
そう言った少女の年の頃は十代位、頭にちょこんと狼耳を鎮座させ、闇の中でも見事な光沢を照り返す栗色の髪、幻想的に淡く浮かび上がる白い肌、蠱惑の赤を含んだ美しい緋色の眼、そんな女神のような、見目麗しき美しさを持つ少女の名前は『ホロ』麦に宿る巨大な狼の化身である。
また女神と比喩したのもあながち間違いではなく、彼女はかつてパスロエ村と言う麦の大産地で豊穣の神をしていた事もある。
「はぁはぁ…わ、わからん」
そんなホロの問いに答えたのは、少し頼りない線の細い青年で名は『ロレンス』
荷馬車を引いて、町から町へと品物を売って商売をする行商人で、パスロエ村に寄った際ホロと出会い、以来共に旅をする間柄になる。
「はぁ…はぁ…、よ、傭兵でしょうか?」
三番目に答えた子供の名はコル。
毛皮の町レノスからエーブを追いかける際、その道中で行きがかり上ロレンスが助ける事になってしまい、それが縁で一緒に旅する事になった。
彼らはそんな第一声を言い終えると、先ほど出会った、ホロですら驚愕したものについてロレンスから話を続けた。
「俺も何度か傭兵は見た事があるが、あんな…あんなデタラメな戦い方をする奴なんか見たことがない」
「わっちも何度か傭兵と合間みえた事はあったが、あそこまでデタラメな奴は初めてじゃ。昔難儀した槍なんかあれに比べたらおもちゃじゃの」
二人がそう意見を言い合うと、黙って聞いていたコルが神妙な顔をして。
「ではやはりルナさんが言っておられた…」
コルがそう言うと、一同はその人物を見やる。
その人物は「ルナ・ハンティング」ロレンスより背が高く傭兵か戦士のように引き締まった体をした男だ。
ロレンスと同じローエン商業組合に所属する商人で、通り名は略した「ルナ」らしい。
らしいと言うのは、その通り名を初めて聞くからだ。
それでルナが同じ組合だと信じたのは、商館で声をかけられた事と、商館の人間と仲が良さそうだったからだ。
ロレンスとて広い組合の中で全ての名前を把握している訳ではない。

しかし、その二つの事だけでも、ルナが組合の人間であると信じるには十分であると判断した上の事だった。
商人とは、少ない情報から物事を見極められてこそ、初めて商人として足り得るのだ。
そんな感じに出会ったルナと、今こうして旅の道中を共にしているのは訳がある。
本来、人ならざるホロの事を考えると、コル以外の増員に関しては、ロレンスは難色示さなければいけない立場だったのだが。
実はルナと出会ったその日の夜「奢りますので一緒にそこの酒場で一杯やりませんか?」と言う誘いを受け、同じ組合の商人の誘いを無下にするのも悪いので、誘いを受けたのだが、ルナが指定した酒場は、大衆的な酒場と言う言葉は似つかわしくない、貴族が通うような高級料理店だった。
そんな料理店でルナが、さあどうぞ、と出した料理の中には、例えホロが可愛くねだっても、たったの一個でも買い渋ってしまう、あの桃の蜂蜜漬けが、一個どころか大量にスライスされて盛りつけられており、それだけでどれだけのお金がかかっているかわからない。
他の料理も、恐らくはロレンスが聞いただけしかない高級な料理が並び、酒に至っても、つがれたコップの底が見える位、驚くほど透き通った高級酒だ。

もちろんコップも木製の樽コップではなく陶製だ。
そんな身分不相応なもてなしを受け、当然ロレンスは怪しみ料理に手をつけないようにして、ホロやコルにもそう促そうとしたが。
時すでに遅く、そんな御馳走を目の前に出されてホロが我慢出来るわけもなく、ロレンスが声をかける前に、すでに目一杯の料理を口に頬ばっていた。
しかもそれはホロだけではなく反対隣に座っていたコルも既に食べており、ロレンスが呆れたように睨め付けると、コルは申し訳なさそうに上目遣いであやまるが、モムモムと食べるのはやめなかった。
そんな二人に、…お前らな、と偏頭痛が起きたように頭を押さえながらロレンスが言うと、ホロは口に物を入れながら「禁欲が何か生む事もありんせん」と、前にも聞いた事があるような言葉を言って食べるのをやめないので、…はぁ、と言うため息と共に止めるのを諦める。
そしてその様子を満足げに、うんうん、とにこやかに見つめるルナにロレンスは、いくら同じ商業組合でも一組合員の歓迎には行き過ぎている、なにが目的なのか? と聞くとルナは心底意外そうな顔をして、ロレンスはご自分の事を過小評価している。あなたはケルーベのキーマンも認めているほどの商人だから交流を持ちたいと思うのは当然でしょう、と返す。

キーマンなど知った名前が出た事で少し納得が言ったロレンスだったが、それでもこの高級料理の山は行き過ぎているだろうと未だに訝しんでいると、それを狙ってたかのようにルナが「もちろん、それ以外にもロレンスさんには頼みたい事がございまして」と交渉を切り出してくる。
ロレンスは、そうら来た、と頭の中でつぶやき、どんな要求が来るのか身構えていると、それは拍子抜けするほど簡単な要求で、ただ、次の町までご一緒させて欲しいとの事だった。
簡単すぎる要求な分、逆に断りづらく、ロレンスは、ええ、まあそれくらいでしたら、と二つ返事で要求を飲む事にしたのだった。
それが今現在ルナと共に旅している理由で。
ロレンスたちを襲った恐るべきものの存在の事は、その道中の夜、焚き火を囲んで談話している時、ルナから聞いたのだった。
話はそこまで遡る。

 

一章【黒の剣士】

「黒の剣士って知っていますか?」
「黒の剣士?」
ロレンスがオウム返しに聞き返すとルナは、ええ、と短く答え。
「人間離れをした力を持っている恐ろしく強い剣士で、化物を殺して回ってるらしいのです」
「化物?」
「はい、なんか森や山の動物が大きくなったような化物らしいのですが」
その言葉にロレンスは、ホロのような存在を連想し冷たい汗が流れるのを感じる。
「へ、へえ、この辺りには、そんな大昔の神話のような怪物が出るなんて噂がまだあるんですか?」
「まったくです。まったく信じがたい噂ですが、どういう訳かここいら一体ではわりとよく聞く噂で、私も信じている訳ではないのですが、火のないところに煙は立たないと言いますし、つい最近もそんなことがあったとかなかったとかで…」
とルナが顔はあまりに真に迫っていたので、一同は言葉を失い、まるで時間が止まったような沈黙が流れる。
続く静寂の中、さわさわと風で擦れあう木々の葉音が妙に大きく感じる。
そんな静寂の中、誰もが固まってしまい、話の中心だったルナですら次の言葉を繋げられずにおり、いつまでもこの状態が続くかとおもわれたが、バチッ、と不意に鳴った焚き火の、大きめな火鉢の音が皆を正気に戻す。
「ご、ご冗談を」
と最初にロレンスが口を開くと。
「驚かせすぎましたか、はは、これは失礼」
と冗談めかしてルナが言うので、皆ほっと安堵のため息を漏らし、場の雰囲気が和やかになる。
なったはずだったが。
「しかし、もし黒の剣士の話が本当だったとした場合…」
と、ルナは空気を読まず、まだこの話題を引っ張るので、ロレンスとコルは目配せして呆れる。
ルナが話し始めた頃から少しづつ感じていたのだが、ルナは商人にしては話すのがヘタと言うか、流れが読めないところがあるような気がしていた。
それにロレンスは、ホロのような存在が殺されている話など、例え噂の範疇でもホロには聞かせたくないなと思ってしまう。
その心境が心に出てしまったのか、つい表情が険しくなってしまったらしく、ルナに「ロレンスさんはこう言う話はあまりお好きではありませんでしたか?」と心配されてしまうので。
ロレンスは慌てて。
「いやいやそんな事はありませんよ。最近は御者台で座りっぱなしが多いせいか、腰が痛みまして、我慢してたのですが、ルナさんの話が楽しかったもので、つい気が緩んで顔に出てしまったようです」と反省するように、ぴしゃり、と頬を叩く。
それにルナは顎に指をあて、ふむと言いながらロレンスを見極めるように見やり。
「いやいやこちらこそ少し話に熱を入れすぎてしまいました。申し訳ない、この手の話をするとついつい童心に帰ってしまって、お恥ずかしい」
「いえいえ、男なら剣士や冒険譚の話に憧れるのは仕方がない事、恥じる事ではありません。さ、お気になさらずお話の続きをしてください」
そこまでロレンスが言うとルナは、顎に当ててた指をさすり、ふむと言い。
「そうですか? …では失礼して」と話を再開させようとするが、ルナは笑みを浮かべていたがどこかぎこちなく固かった。
それにロレンスは、ルナに与えてしまったかも知れない悪い心象を少しでも拭うため、今度こそ商人として失礼の無いよう、あたかも話に興味があるように身を乗り出して聞く姿勢を取ると、ルナはそのロレンスの態度に満足したような笑みを浮かべ話を再開する。
「ロレンスさんは人の身で、本当に巨大な化物を倒せると思えますか?」
「人の身で…ですか?」
「ええ、私は黒の剣士はもちろん見たことがありません。それゆえに気になるのですよ。小さな人の身がどのような方法を用いれば巨大な化物を倒せるのか?」
「ふむ、確かにそれは興味深いお話ですね。私も気になります」
ロレンスは手を顎にかけ俯き、ふむ、と長考し、さも興味ありげに見せるが、半分くらいはもちろんルナが気を悪くしないための振り、もう半分は純粋に興味から、どんな話から金儲けの話があるかわからない、とるに足らないくだらない話でも、耳をかたむけられてこそ商人だ。
「…巨大な化物を人間の手で倒す方法……うーん」
ロレンスは顎にかけていた手を目の位置まで移動させると、視線を隠すようにかざし、今一度唸るように、うーん、と言い本気で悩んでる振りをする。
「なんでも構いませんよ。思いついた事を言ってくれれば、私はロレンスさんの忌憚のない意見が聞きたいのです」
「そうですか? ではこんなのは…」
「わっちも旦那様がその答えをどう出すのか気になりますの」
ロレンスは話の腰を折られて、うっと唸って鼻白む。
的確にロレンスの話を潰せる絶妙な間で会話を挟んでくるのはもちろんホロ。
しかもホロが求める答えはそのままの意味ではなく、ほう? 主はどんな方法でわっちを退治するのかの? 答えによってはどうなるかわかっとるな? と言う意味合いであることは想像に難くない。
その証拠に外套の隙間から見える口元は明らかににやついていた。
「ほほ~奥様もこの話にご興味がおありで?」
「ええ、とても、わっちの旦那様が一体どんな勇ましい倒し方をするのかと、その話によっては惚れ直すかも知れんせん。まあその逆もあるかも知れんがの」
そうホロが言うとルナは、ははは、と小気味に笑い景気よく、パァン! と腿にかしわ手を打つと。
「それは面白い! これは迂闊な事は言えなくなってしまいましたね。ロレンスさん」
「……はは」
ロレンスは困ったように苦笑いを返す。
ルナに取ってはただの夫婦間の冗談事に見えるだろうがとんでもない。
これはいつものホロとロレンスの饒舌戦の始まりだ。
誤った答えを言ってしまったら、ご機嫌を治すのにどれだけの対価要求されるかわからない。
それを知っている唯一の身内のコルは、ホロとロレンスを数回交互にみやった後、ロレンスを心配するように不安げな面持ちで見上げてくる。
そんなコルの不吉な視線をロレンスは、厄払いするようにがぶりふり、喉を整えるため、んん、と咳払いをすると。
「おお! 命よりも大事な我が妻から愛をもらえるならば、私は喜んで化物を倒す方法をお教えしましょう!」
「ほう、ではその方法とは」
と、相変わらず顎をさすりながらルナが聞くと。
「慌てないでください。今順番に教えていきます」
とロレンスは顔に手をかざしたままがぶりふってルナを制する。
そして、指の隙間からルナの様子を見ながらゆっくりと、……それは、と勿体つけて言い。
それにルナが早く答えを聞きたくてたまらず身を乗り出したところでロレンスは図ったように「これです!」と、腰の銀の短剣を鋭い鞘走りを放って眼前に抜いてみせる。
「そ、それですか?」
ロレンスの拍子抜けな答えに身を乗り出した分コケそうになるルナ。
「ええ、これです」
「あなたはその小さな銀の短剣で、山くらい大きな化物を倒すと言うのですか?」
そうルナが呆れ顔で聞くと、ロレンスは不敵に笑い。
「いいえ倒しません。私の戦い方はこうですから」
と抜いた銀の短剣を地面に落とす。
「武器を……捨てる?」
「はい!」
ロレンスの行動の真意をつかめず、不思議がるルナにロレンスは快活に答えると、次にホロの方へと向き直り、次は右手を胸に、左手はホロの方へとさしのべ。
「おお! 太陽より眩しく、月よりも美しい我が伴侶ホロよ! 私がお前と戦う事など一夜にして世界の海が消えるくらいありえない事だ。おお私が悪かったと言うならば、谷よりも深く反省し清流より澄んだ心で謝ろう。だから愛しきホロよ許しておくれ、そしてお前のたおやかな風のような愛でまた私を包んでおくれ、おおホロよ、そうすれば私はお前に不変の愛を誓おう…」
唐突に愛の詩を歌いだしたロレンスに周りは騒然とする。
その様子にロレンスは不敵に笑い、理解が追いつかず呆けているルナに「……という訳です」と言う。
「ど、どういう訳でしょうか? 私にはなにがなんだかさっぱり……」
ルナがそう言うとロレンスは人差し指を立てて説明するように語りだす。
「いいですか? 私たちは商人です。商人の武器はこれです。 そう言葉、どんな戦いにおいても商人は言葉で戦うしかありません。機嫌を悪くした妻にしろ、恐ろしい化物にしろ、そして両方とも倒し方は同じ」
「同じ何ですか?」
「ええ、答えは簡単、尻に敷かれてればいいのです」
その答えにルナはいばし黙考した後、理解して吹き出すように大笑いする。
「そ、それは確かに、はっはっは! 奥様も立ててもらえるなら文句はありますまい!」
とホロに顔を向けてルナが聞くと。
「ええ、それはもう、それだけの壮大な詩で愛していると歌ってくれるなら、それだけの壮大な物をねだっても文句はありせんはずですから、…次の街でもまた桃のはちみつ漬けがたらふく食べれそうじゃの?」
「え? はぁ!?  ……ちょっと待て! これとそれとは話が違う! あんな高価な物を大量なんて俺には無理に決まってるだろ!」
「と言っても、そもそもわっちは本当の値段など知りんせん。それを良い事に旦那様は、高い高いとわざと言って、わっちの買う気を削いでいたのではないかのう?」
「そ、それは違う! あれは本当に高い物なんだ!」
「あれだけ大量に出された後では、『言葉』だけでは信用できんのう。確かめるために、次の街についたら目の前で買ってもらおかの」
「……っ!?」
……やられた、ホロが会話に割り込んできた本来の狙いは、ロレンスに次の町で桃の蜂蜜漬けをロレンス買わせるようにする事だったのだ。
ついでにロレンスの、商人の武器は言葉です、の理論もきっちり潰して。
さすがヨイツの賢狼ホロである。
そんな賢狼様に、商人としての面目も潰されたが、そんな事でいちいち腹を立ててはいられない。
挑発されても笑顔で返せてこそ商人だ。
ロレンスは、まいったよ、と両手を挙げて降参の意思を見せる。
それにホロは満足したように、くふっ、と小さく笑い。
おろおろと不安がっていたコルは胸を撫で下ろし、ほっ、と安堵のため息をもらす。
それにロレンスは、ホロとこんな感じな言い合いになると、コルは毎回過剰に心配してるなと感じ、今度これくらいで決別する事はないからと説明しておいた方がいいな、とそう感じていると、不意にホロが。
「次の町では何個食べようかの?」
と驚く事を言うので、ロレンスは慌てて。
「はぁ!? 一個に決まってるだろう!」
と言う。
そんなロレンスに、今まで意地悪な笑みを浮かべていたホロは、ふっ、と小さく笑い。
「冗談じゃ、これ以上やって旦那様が干からびても困りんす。これぐらいにしておくかの」
「たくっ、お前には敵わないよ。本当に」
「じゃがそんなわっちが可愛いんじゃろ?」
とホロは小首をかしげて上目使いに言う。
わざとあざとくやっているのは分かっている事だが、それでも頬を熱くして戸惑うのは男の性。
ロレンスはホロから視線をそらし、ばつが悪そうに頬を掻いて「まあ、確かに……な」と言うと、後ろを向いてしまったので表情までは分からないが、嬉しそうに「くふっ」と聞こえてくるのが妙に心地よい。
そこまでやり取りを終えるとロレンスは、唐突にルナの存在を思い出す。
忘れていた訳でなかったのだが、ホロのペースに乗せられていたのと、途中からルナが一言も発さなくなったので完全に気が逸れていたのだ。
会話の最中で相手の忘れる事など商人としてあり得ない。
直ぐ様ルナに向き直り。
「と、ままあ尻に敷かれて……大変……ですよ?」
と言うが。
言おうと思ったが。
ロレンスは言葉を言いよどんでしまう。
それはルナから笑顔が消えていたから。
凍りついた顔に吸い込まれそうな仄暗い目。
その様相はロレンスの言葉を止めるには十分だった。
ホロとコルもただならぬ雰囲気を感じとる。
「ル、ルナさん? すみません私たちだけで話してしまってお気を悪くしましたか?」
そうロレンスが聞くと、ルナは、はっ、と我に返ったようにして。
「いやいやすいませんロレンスさん。ちょっと昨日はあまり寝てなくて、ついついぼーっとしてたようです」
と直ぐに頭をかきながら、ははは、と人懐っこい笑顔を浮かべ、恥ずかしそうにそう返す。
その様相は、丸み帯びた顔が熊のよう。
その顔を見て、ほっ、とロレンスは胸を撫で下ろす。
「それを聞いて安心しました」
「いやいや申し訳ない。それにしても面白いお話を聞かせて頂きました。しかしロレンスさんには少々迷惑をかけてしまったようですね」
「いえいえこんな事はいつもの事ですから気にしないでください」
「そうですか、それにしても凄い奥さんだ」
とルナは心底感心したように言う。
それにホロは気を良くしたのか、外套の隙間から覗かれる口許がニヤリと動く。
ロレンスはそれを見て、先ほどルナのただ事ではない様子から、もしかしたらホロと同じような存在ではないかと、今まで出会ったクメルスンの鳥の化身ディアナやブロンデル大修道院の羊の化身ハスキンズなどから感じた、空気と似たようなものをルナにも感じたのでそうかと一瞬思ったが、もしおかしかったら真っ先に気づくホロの態度が変わらないので判断がつかない。
ロレンスはあくまでただの人間。
何度かそのような経験をしたからって、当然ながら異能なる者が分かる力はない。
だからとりあえずここは話を合わさせて、後でホロに聞くことにしたロレンスは「自慢の妻です」と有り体な返しをしておく。
するとルナは今度はホロを真っ直ぐと見据え。
「いやあ本当に凄い奥さんだ。ところでどうです? 奥さんも考えて見ませんか? 化物の倒し方を」
と質問をする。
「わっちがかや?」
「ええ、なんなら化物が人間に倒せるか否か、そのいずれかでも構いません」
「くふっ、それをわっちに聞くとは、主様はなかなか面白い事を思い付く」
とホロは笑いながら楽しそうに返す。
確かに面白い事だ。
何せ、その化物の本人に聞いているのだから。
ホロは「…そうじゃのう」とたっぷりと長考し。
ホロの話を聞こうと皆が耳を傾けたところで
「まあ化物と言っても、きっと切れば血が出るだろうし、叩けば骨も折れるだろう。だから倒せると思うが……」
「倒せると思うが?」
ルナが身を乗り出してオウム返しで聞くと、ホロは不敵に笑い。
「それは狼以外の化物に限りじゃ。元から手強い狼が、巨大な物となれば人間に倒せる術はありんせん」
ロレンスは、そのホロの狼びいきの答えはある程度予想はしていたが、実際に言われてしまうとおかしさが堪えきれずつい吹き出してしまう。
一応ホロには悟られないように出来るだけ小さく笑ったが。
聞こうと思えば恐らくは1里先に落とした針の音も聞き分ける狼の耳。
ロレンスの浅はかなごまかしなど通じるはずもなく、すっぽりと被った外套の上、耳がある部分が、ピクッと動くとホロはロレンスの方へと顔を向け、まるで、なんじゃ文句でもあるのか、と言ったような憮然顔でねめつける。
そんなホロにロレンスは、あくまで小馬鹿にした笑みは消さないが、そんなつもりはないと小さくがぶりふる。
そのロレンスの態度が気に入らなかったのか、ホロはさらに目を細めながらまた底意地の悪い笑顔を浮かべ、またロレンスが困るような事を言おうと口を開こうとした。
それにロレンスは先ほど負けたからと言って逃げ腰にはならず、逆に望むところだと言わんばかりに身構える。
それがいつものやり取り、いつもの二人。
そんな感じにまた二人の口争が始まろうとしたその時だった。
「はぁーーーはっはっ!! 狼が? あっはっは!」
突然ルナが、まるで人が変わったように、ホロの言った事に笑い出す。

ホロの言った事をバカにするように。
「……ほぉ、そんなにわっちが言った事がおかしいかや?」
当然ホロは怒る。
ロレンスの時とは比較にならない位。
地を這うような冷たい声で、刺すような鋭い視線で。
仲間を自分を、そして誇り傷つけられたホロは、本気で怒る。
その迫力にロレンス、それにコルが息を飲む。
しかしそれを向けられている当の本人である、ルナは。
「ははは、…し、失礼だが奥様は狼の事を知らなさすぎる」
とあっけらかんに続ける。
出た言葉にも、ホロに対して言うにはぎょっとする物だったが、それよりもこの空気の読めなさ具合は商人以前に人間としてもどうかと思う。
しかしホロは、そんなルナの態度にも、さすがは賢狼足るか。
「ほぅ、ならば問うが、主は何を思って狼が大した事がないと思う?」
と冷静に沈着にルナに問う。
それでも怒りの炎を絶やさずに。
ルナは、そんなホロの様子にもまったく意に解さずと言ったかんじで、それどころか威風堂々、昂然たる態度でホロの問いを返す。
「いいですか奥さん? 狼は弱い相手には強気で襲いかかりますが、相手がちょっとでも強ければすぐに尻尾を丸めて逃げてしまうような奴らなんです。前に狼狩りをしに行った時など、分が悪いと分かったら、奴らすぐに散り散りなって逃げましたよ。まさに狼の皮を被ったなんとやらですよ」
なんで商人が狼狩りなどに行ったのか、傭兵か狩人の斡旋業でもやっているのだろうか。
ロレンスは気になったが思考がまとまらないうちにホロが口を開いたので、とりあえずそちらに耳を傾ける事にした。
「それは違うのぅー…、狼は確かに相手が強ければ逃げるときもあるだろうが、それは次に繋げるためじゃ、そこで無理をし怪我をして狩りが出来なくなっては生きてはいけんからの」
「なるほど、そう言う考え方もありますな」
と顎をさすりながら視線だけ明後日の方向に向けて思案顔をするルナ。
「そうじゃ、決して怖いから逃げてるのではありんせん、引かぬ愚か引く勇気、それを知ってるからこそでありんす」
「しかし逃げ出すのは弱さの証明では? 強ければ怪我もしないのだから逃げる必要がそもそもないかと」
「それも違うの、何度も言うが狼は無用な争いはしない、そんな狼が戦う事を決めたとき、特に仲間のために戦うなら恐ろしく強くなる、この世の何者よりものぅ…」
ホロはそこまで話すと睨むようにルナを見据える。
しっかりとまっすぐと。
このわっちにここまで言わせたのだ、ただの返答では済まさんぞ、と言った感じだ。
しかしこのルナと言う男。
振りだけとは言え、ホロは今現在ロレンスの妻である。
ロレンスと商人として交流を持ちたいと言うなら、その妻を挑発するような事を言うだろうか?
ルナがさっきからそう言う態度は明白であり、すぐに不安がるコルもおろおろしっぱなしだ。
商人同士の会話じゃなくても、昨日今日あったばかりの相手、しかも女、おまけに美しいホロに、男のルナが好かれようとすればこそあれ、明らかに相手が嫌がるような会話を続けるだろうか?
それともルナは男色志向なのか。
そんな考えに至る俺が俗なだけなのかは、わからないがとにかく普通の人とは違うそれを感じる。
やはりルナはホロと同じ何か獣の化身なのだろうか?
ホロに何かしらの用があってロレンスたちに近づいたのか?
とにかくここまでホロを怒らせてしまったら、次のルナが発した言葉次第では、どちらかがここから出ていかなくなるかも知れない。
そんな一瞬即発の空気の中。
ホロは憤慨しながら、ロレンスは図りながら、コルはオロオロしながら。
三人が三人、いろいろな思い胸に抱き、ルナの次の言葉を待つ。
しかしそんな中ルナが言った言葉は。
「失礼ですが、いまいちよくわからないのですが、奥さんはなぜそこまで狼にお詳しいんですか?」だった。
あまりに普通の答えだった。
まあ、あって当然だが。
しかしホロはその言葉を聞くと、大きく目を開き言葉を失う。
端的に言えば固まっていた。
そんなホロの様子にロレンスは、確かに自分もルナの事は人間ではないのではと考えていたので、肩透かしを食らった感じはあったが、それでもあの賢狼を冠するホロが、十分予想される返答で、ここまで固まってしまう物なんだろうか?
そのホロの状態を知ってか知らずかわからないが、ルナは言葉を繋げて話を繋げる。
「いやね、狼の事なんて道中出会った時の対処方だけ知っておけばいいじゃないですか?  それなのに奥さんはがここまで狼にお詳しいとは、奥さんは狼の研究家かなにかで?」
ルナはホロが固まって反応を見せないので途中からロレンスに話を振る。
話を振られたロレンスは、どうしたものかとホロを見るが、すでに硬直は解けていたが、視線を落とし何やら難しい顔で黙考していた。
ロレンスはホロが何を考えているのか、正直わからないが、とりあえず作り話でルナの問いに答えておくことにした。
「そう言う訳ではないのですが、私も詳しくは知らないのですが、妻の出身の村の山林には昔からよく狼が出るらしくて、それで長い間に狼と付き合った知識と言いますか? そう言うのがあって、妻はそこの村人だったので、幼い頃からその知識を教えられたみたいです」
「ほほう、なるほど合点がきました。なるほどなるほど、……もしかしてその村の名前は」
そこでロレンスは話続けようとするルナを手で制し。
「すみません、家内も息子もそろそろ…、ルナさんと話せて楽しかったですが今日のところは…」
コルはホロと俺との子にしてある。
もちらん振りなのだが少し気恥ずかしく感じる。
「ははは、宴もたけなわと言ったところでしょうか? 遅くまですいませんなぁ」
「いえこちらこそ、では私たちは自分の荷馬車で寝ますので」
そう言うとルナも、では私もと、おやすみの挨拶と共に自分の荷馬車へ。
それを見届けたロレンスも。
「ホロ、コル俺たちも寝よう」
と声をかける。
コルは、はい! といい返事をして荷馬車に向かうが、ホロはまだ何か考え事をしてるらしく未だ黙考中で動かない。
「ホロ?」
ロレンスがそう呼びかけて肩を掴んだところで「ん? あー主か、どうしたんかや?」とホロにしては間が抜けた返答をする。
「どうしたって…、もう話も終わって寝るところだぞ?」
「んー?  そうかそんな時間か、うむ主よ寝るとするか」
ホロは先ほどの様子とはうって変わっていつものホロそのものだった。
ホロはその後、いつものようにコルを抱きすくめ荷馬車の荷台に入ると、毛布をかぶってさっさと寝てしまう。
ロレンスもそれに習って荷台に入る。
そしていつもは寒い地方以外ならば多少は距離を取って眠るが、今日はホロにさっき様子がおかしかった事と、おそらくその原因であったルナが人、間なのか聞くためホロの真横に陣取り小声で話しかける。
「おい起きてるか?」
「たわけがそんなにすぐ眠れる訳なかろう」
矢継ぎ早に返すホロの言葉は、少し機嫌が悪いそれを含んでいた。
先ほどのルナとの会話が原因だろう。
ホロの背中越しに抱きすくめられているコルの頭もぴくっと動く。
またぞろ喧嘩でも始まったのか不安がっているのだろう。
だがそんなホロにも慣れっこなロレンスは、臆する事なく会話を続ける。
「聞きたい事があるんだが」
「主とわっちの仲じゃ、回りくどい聞き方をするな、あやつの事じゃろう?」
ホロはコルを離して、ロレンスに向き直り、ルナの荷馬車のある方を見てそう言う。
「ああ、やはり先ほどの事といい、旅に同行したいだけであんな高級料理をふるまったり、ルナの行動はいろんな意味でいちいちおかしい、……あいつは人間なのか?」
ロレンスがそう問うとホロはしばらく逡巡したのち。
「……あやつはのう」
とまたホロは言葉を止め、たっぷりと思わせ振りに溜めるので、ロレンスとコルは、固唾をゴクリと飲み込みホロの言葉を待つ。
そしてホロは言うべきか言わざるべきか、そんな風に悩んでいるような感じを続けようやく口を開く。
「あやつは、わっちらと同じ……、と思ったんだが」
ホロは歯切れの悪く答えるので、ロレンスは「思ったんだが?」とオウム返しで問い返し、ホロに先を促す。
「うむ、あやつは…人間じゃ、紛うことなき正真正銘のな」
「人間? ならなんで一瞬でもそうだと思った?」
「それはのう、そうであるかそうでないか、わっちはその区別は臭いでわかる」
「臭い…?」
ロレンスは思案風にあごをさする。
「そうじゃ臭いじゃ、わっちと同じ者はどんなにうまく隠しても、その獣特有の臭いがする。しかしあやつからはその臭いがしなかった」
「……? だったら人間じゃないのか?」
ホロが言ってる事に、いまいち要領を得られなかったロレンスがそう訪ね返すと、ホロはここからが本題だと言わんばかりに、ロレンスの真っ直ぐに見据え深く頷く。
ロレンスはそんなホロの目を見て、慣れたとは言え、不意にその美しい目で見つめられると鼓動が高まってしまい、気恥ずかしさから顔を逸らしてしまう。
そんなロレンスにホロは不満げな顔をすると、両の手でロレンスの頬を鷲掴みにして自分の方に向けさせる。
「こりゃ主よ、わっちと主の間で今さらそんなことで恥ずかしがるでない」
「ふぇい?」ロレンスは頬を押さえられてうまく喋れず、変な声を出して聞き返す。
「わっちと主とは、もうそう言う間柄だと思っとるのに、主がそんな態度を取ると、わっちだけがそう思ってるみたいで、……嫌じゃ」
そう言うと、今度はホロが目を伏せ、ロレンスから顔を逸らす。
そんなホロをみて、ロレンスは胸が熱くなるのを感じる。
惚れた女にそんな事をされれば、誰だって男を見せたくなるのが男の性。
気合いを入れ直して、頬を押さえつけている両の手を取り、そして掴んだ手を力強く握りしめ「すまん」と素直に謝る。
いつかのように、いきなり抱きしめなかったのは成長したからか。
そんなロレンスの態度にホロは、ピンとたっていた耳をへにゃりと倒し、逸らしていた顔をおずおずと言った感じに戻す。
再びロレンスの視界に戻ったホロの顔は、頬は赤くそまり、瞳は潤ませ、眉を困ったように愁眉に開かせていた。
その顔の色には男ならば誰でも魅了される蠱惑の色が含まれ、また再びロレンスの鼓動を速くさせるが、今度はしっかりとホロを見据えて離さない。
それに満足したのか、ホロは小さく笑って言う。
「まあ、わっちに見とれてあたふたしている可愛い主を見るのも好きなんじゃがな、まあ取り敢えず合格じゃ。これからも雄としてわっちをしっかりリードしてくりゃれ?」
「ああ、まかせろ」
「くふっ、うむ、まかせる。……それでさっきの話の続きなんじゃが」
「ああ、ルナは人間の臭い以外しない、だから人間じゃないのか?」
「うむ、臭いは確かにそうじゃった。しかしの、これはわっちの鼻より不確かな事だからあまり胸を張って言えないのだが、わっちの獣の勘がルナはただの人間ではないと告げているのよ」
「獣の……勘か……」
ロレンスは目を細め顎をさすり、ホロの言った言葉をじっくりと咀嚼して思案する。
「そうじゃわっちの獣の勘が、あやつはただ者ではないと感じたのじゃ、特にわっちを笑ったあの瞬間、それが色濃くなってのう、てっきり何か仕掛けて来るのかと身構えておったんじゃがのう。それがいきなり普通の人間のそれと変わらなくなってしまったもんじゃから、毒気を抜かれてついでに言葉も抜けてしまったでありんす」
「そうか、それでお前はあの時様子がおかしくなってたのか」
「うむだから主よ、臭いと違って確証がないから保障せんが、あの男には十分に気をつけろ」
「おまえがそこまで言うならそうなんだろうな、よしわかったルナには注意しておく。なんならルナがお前の機嫌を悪くしたから一緒にはいけなくなった、とでも言って明日にでも別れよう」
「うむ、懸命な判断じゃな。コル坊もそれでいいな?」
「……」
「コル坊?」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
コルは話が長くなったせいか、いつの間にか眠っていたらしい。
やはりまだまだ子供である。
「コル、聞いてなかったのか?」
「は、はい……す、すいません」
コルは学院の教師に咎められたように萎縮する。
「いや、そんなに改まらなくていいよ」
「…は、はい」
気にしなくてもいいとロレンスは言うが、どうにも態度が直らない。
仕方ない性分なんだろう。
そんなコルに嘆息しながらも話を続ける。
「明日から、ルナとは別々に行くことにした」
「はあ…」
話を聞いてなければ、驚く話だとおもうが、コルは眠いせいか返事は上の空。
「主よ、今無理に教えてもしっかりとは伝わらんだろう。今日のところはもう寝ておかんか?」
「それもそうだな、すまなかったなコルもう寝ていいぞ」
とコルに声をかけると、よほど眠かったのか「ふぁい」の二つ返事で寝床に着こうとする。
ロレンスもそれに習って寝ようとした。
その時だった。
パアーーーン!
突如、静寂な闇夜に響く乾いた音。
しかもその音の出どころは、すぐそこ、すぐ側、すぐ隣、ロレンスの隣。
ホロが、何を思ったのかコルの襟首を掴んで無理矢理起こすと強烈な平手打ちを食らわしていた。
あまりに唐突の事だったからか、叩かれた後にコルが崩れ落ちる瞬間が酷くゆっくりに見える。
どさり、とコルが叩かれた勢いで尻餅をついた音で、状況がわからず放心していたロレンスはようやく正気に戻り。
「なにをやってるんだ! お前は!」
と、当然ホロの奇行を止めようと怒鳴るロレンス。
しかしホロはそんなロレンスの怒声も、ものともせず、逆に鬼気迫る表情でロレンスの怒声を潰すように言い放つ。
「主も起きるんす! 今すぐここから逃げるんじゃ!」
そのホロのただならぬ様子に、ロレンスは商人らしく即座に頭を切り替えて冷静に問い返す。
「何かあったのか?」
「わっちとした事が、あの小僧に気をとられて完全に見落としてたでありんす」
ホロは親指の爪を咬みギリギリと歯噛みする。
いつも自信に満ちあふれているホロが、恥や外聞を気にせず、こんなに焦るのは相当の事が起きている。
ロレンスは慌てて起き上がり周囲を見渡すが、常人のロレンスの目では闇夜、しかも深い森の細部までは見えない。
「一体何が見えるんだ?」
「…! はやっ! 駄目じゃ!間に合わぬ! 主よ許せ!」
ホロがそう言った瞬間ロレンスは蹴られていた。
ホロの美脚によって。
美しい細みの足にしてはどうのはいった蹴りを食らい、ロレンスは蹴られた方向に押され、ホロとロレンスの間が広がる。
その瞬間、広がった間に何かが通りすぎた。
黒くて。
長くて。
平たい何かが。
その何かはロレンスたちの目の前を通りすぎ、荷台の底にぶつかると、爆発した。
文字通りの爆発。
荷台は中の辺りから折り畳まれるようにひしゃげ、その衝撃で破砕した針のような木屑の破片が爆発したように無数に飛び散る。
ロレンスはホロに蹴られたおかげで荷台の外に落ち、ホロもまた反対側にコルを抱えて落ちる。
そして落ちたその瞬間、ロレンスが長年愛用していた荷馬車の荷台は完全に真っ二つに破壊され、その真っ二つとなった荷台の間にそれが立っていた。
ルナが言っていた、黒くて、強くて、恐ろしい剣士。
黒の剣士が。

 

続く

 

・次回

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